第31回『北の国から 83′ 冬~ 2002 遺言』

影の主役、中嶋朋子そして螢

コンプリートしたからこそ際立った最大の発見は、螢という役の重みと中嶋朋子の素晴らしい演技力でした。そもそも螢は「不倫の末父を捨てた母を憎んでいた娘が、母と同じく男で父を捨て不倫に走る」という大きな業を背負わされているわけです。連続ドラマから『初恋』までずっとやりたい放題の男2人に挟まれて、受け身を貫いてきた螢が突如自我を丸出しにする『巣立ち』は、背筋の凍る思いで見ました。極貧の父をどん底に突き落としたまま、裕福な彼氏の実家で嫁を気取ってきゃっきゃしてる大晦日の様子は鬼の所業でしたね。

そこから盛大に男で人生を狂わしていきますがね、覚悟がね、純や母とは段違いの壮絶さです。で、正吉と結婚し、別の男の子を正吉の子として育てていくってんだからもう、これだけ読めば最悪の女なわけですが、一方で『北の国から』で一番魅力的なキャラクターもまた螢ちゃんでしてね、通して見ると。これは中嶋朋子の神がかった演技力なくしては決して成し得なかった偉業です。

ドラマスタート時は完全な棒読み状態だった朋子ちゃん。しかし母を憎むふりして全力疾走で追うシーンからの猛烈な成長がすごいんです。1年後の『83’冬』では、中学生にして憂いを帯びた受け身の螢が誕生し、『巣立ち』の冷酷さは目を塞ぎたくなるほど。『秘密』での不倫逃避行時、父から去っていく悲壮な背中は、個人的には「子供が食べてる途中でしょうが!」と同ランクの名場面でした。続く『時代』でのあばずれ感、『遺言』でのヒステリックママぶりもさすがです。

常に物陰に隠れている正吉の母みどりのダメ母ぶりもよかったですが、あの朋子ちゃんがねえ、ここまでの女優になるとは。通して観た時の驚きったらないですよ。ニートの皆さん。螢の成長を見たら、人生捨てたもんじゃないなと明るくなれますよ!

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツの企画運営を始め、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、二度寝な