いいドラマは初回がすごい
「小説の良し悪しは一行目で決まる」なんて話もありますが、それと同じことがドラマにも言えるようで、『北の国から』『推奴』『Dr.コトー診療所』などと同じくこのドラマも初回の冒頭が出色です。歯医者の会計で帰宅後に銘菓「萩の月」が食べられるか気にしていた光生(瑛太)が家に帰ってみたら、妻の結夏(尾野真千子)が友だちを集めてそれを食べまくっていた。猛スピードで家を片付けつつ小声で文句をまくし立てる光生。小さい男です。
「怒ってることは怒ってるけどその中で分けた複雑な割り振りのなかでは必ずしも怒ってるわけじゃない」
「え?」
「だから怒ってることは怒ってるけどそのなかで分け(略)」
光生の周りくどい言い方、さらに小さい!妻の結夏、雑!!その様子をキッチンの天井から広角で撮ってるのが部屋の狭さを強調してまたリアルです。そして2人の確執の中心にあるらしい「子作り問題」のシーンになった途端、不安そうに飼い猫を抱いて立ち尽くす光生ですよ。声なんて上ずっちゃって。ちっさー!!喧嘩は結局朝まで続き、離婚届をダウンロードして作り始めるんですが、何度目かの書き損じの末プリンターが詰まってしまう。
「つまったみたい」「触った!?」
徹夜明けでも瞬発力高く妻を疑う小さい男、光生です。
萩の月から離婚届まで、小さいところを限りなく深堀りしていく生々しい夫婦喧嘩は、朝の出勤風景へと繋がってさらに磨きをかけます。せっせと朝食や弁当の準備をする光生、遅れて起きてくるなりソファーにまた寝ちゃう結夏。洗面所に行ってみたら、光生がきれいに整えたシンク周りがぐちゃぐちゃに荒れている。水滴を拭き上げながら
「言ったところでな……言ったところでなんだよな」
忌々しげに呟く光生の背中には、苦悩の深刻さがこれ以上なく現れているんですが、もうね、小さすぎて。気の毒なくらい。あまりの痛々しさに笑いすぎて背筋が寒くなりました。ここまで話の小ささへの集中力が一切途切れないのも、奇跡を見る思いでした。
結局この『最高の離婚』第一話は、光生の早口に合わせるかのような猛スピードとコミカルな動きのおかげで、息つく暇もなく一気に視聴者を飲み込んでしまうのです。名作『結婚できない男』の「お尻陵辱」で視聴者の度肝を掴むやり方にも目を見張りましたが、『最高の離婚』に関しては、第一話の冒頭を解説するだけであらすじの説明はいらないレベルです。素晴らしい。第1話フルエピソード動画貼っときますね。