第21回『昼顔 −平日午後3時の恋人たち 』

不倫の恋が壊すもの

世界的にも特異な制裁が行える一方で、日本は「不倫大国」なんて言われ方もしています。不義密通が死刑であった江戸時代、これは夫からの告訴がないと成立しない犯罪なのですが、夫が参勤交代中にお武家の奥方が間男と出来てしまうなんてことがあまりにも多いので、大岡越前が死罪ではなく慰謝料で手を打つシステムを作ったほどだそうです。一方で庶民の場合は夫に三行半をつきつけられて終わりが大半だったようで、田舎じゃ夜這いも普通だし、女性の再婚も当たり前だったそうですから、今より自由な雰囲気ですね。

明治に入り天皇制になると姦通罪が施行されますが、これも夫が妻を訴えるものです。天皇を頂点とした国家の縮図として家父長制が強化された時代で、江戸のゆるい空気はなくなり、家族というヒエラルキーを崩した妻の罪はより重大なものとなりました。このように、不貞に法的な制裁が加えられるのは、結婚が「家」という組織の上にあるもので、妻が夫の財産だった時代の名残であるわけです。

現代に目を移すと、典型的な不倫関係は「妻子ある夫が独身の若い女性と」というもの。不倫における現代の法的制裁は、専業主婦と子どもの救済に役立ってきました。戦後の高度経済成長を担うために、結婚とは「核家族を作り、小さな家で妻が子を数人育て、夫は朝から晩まで会社で働く」ためのものとなり、扶養控除など専業主婦への優遇策も作られてきました。しかし専業主婦は家から一歩出れば社会的弱者も同じで、不倫による家庭崩壊が増えれば弱者も増えるし社会も揺らぐのです。

結婚は夫婦間だけでなく、その時代によって変化する「国策との契約」でもあります。不倫が壊すのは、この国の形そのものなのです。先ほど「入れたらアウト」と書きましたが、そこが重要になるのは「子作り=国作りの基本」だからですね。国家の土台を侵害するものは、何人たりとも許さない。それが日本の慰謝料システムに現れていると思います。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。