第39回『おやじの背中』

それはオヤジの背中じゃないだろな3つ

このドラマがどこまでも挑戦的だったなあと思う部分はさきほども述べたとおり、冒頭2話がオヤジの背中じゃなくて「オヤジのバックハグ」というくらいべったりな父娘関係の話であったこと。1話目の「圭さんと瞳子さん」では、朝から凝った魚を焼くような、食を大切にする、一日一日の生活を愛でるように暮らしている父娘がいてそれがお互いを夫婦のように名前で呼び合っている。お互い向かい合わせの職場で働いていて、お昼には窓ごしに手を振り合ったりして。夕飯は何をたべましょうなんて言って、ボディータッチもあったりして。この瞳子さんというのが病気持ちで、発作を起こすと父が「圭さんがいるから大丈夫だよ!」と抱きしめたりして。ほんと、二人っきりの世界に篭って暮らしてるわけです。なんなんだこれはと。気持ち悪いとしか言いようがない。ほんとはお互いプラトニックな恋愛感情でも持ってんじゃないの?いやそれほんとにプラトニック?てな具合に背徳がむせ返っていて、何そんな日曜劇場第一回でミニシアター系衝撃作みたいなもん流してんだよ!とさすがの私もドン引きしました。こちら、さわりだけね。

第二回の「ウエディング・マッチ」、これは坂元裕二ドラマ常連の満島ひかり起用だけあって、役所広司との二人芝居にハマるハマる。ドラマ好きには嬉しくてたまらない、一時も退屈する暇がないような素晴らしい展開でしたが、やっぱりね。娘を女子ボクシングのオリンピック選手にするために子供の頃から囲いこんでいる父、なんだかんだ言ってその世界だけで暮らしている娘、父が若い女と結婚前提にイチャイチャしてるのを知った娘が力ずくで別れさせ、ボクシングをやめて結婚しようとしている娘を父が無理やり挑発してボクシングの世界へ引き戻してしまうという、え?この二人、親離れも子離れもしないの?という、しんみりと流れるはずだった涙もラストで凍りつくというそんな異色のドラマでした。この辺で、オヤジの背中見て泣く息子を期待してた日曜夜のお茶の間は完全脱落でしょう。こちらもさわりだけですが。

この異色すぎる2つを上回ったのが山田太一の「よろしくな、息子。」。渡辺謙が実際の義理の息子である東出昌大と共演ということで期待してたのですが、蓋を開けてみたらどこにも父子がいないという状態にのけぞりました。なんだか上っ面ばかり正義感の、大根演技なんだか計算し尽くしたピュアな演技なんだか分からない、ポロシャツのボタンを一番上まで止めるような、それでいていい大人なのに「ママー」なんて呼ぶような、薄気味悪い男子に心酔した靴職人の男が、実は見合いして振られていたその母を息子をダシにして懐柔し、手籠めにし、朝やってきた息子にあられもない寝室での姿を見られたりして、「よろしく、パパ。」なんて呼ばれたりして、気持ち悪さの上では群を抜いていました。母親役の余貴美子が、渡辺謙に抱きついて「何年ぶりかしら、男の体ぁぁ!」と鼻息荒くいいながらとろけるシーンは一体これのどこがオヤジの背中なんだと爆笑を禁じ得ませんでした。

他は一応、常識の範囲内での「父の背中」の物語。ベタなのが見たい方は第八話、大御所の池端俊策大泉さんの「駄菓子」、最終回、三谷幸喜の「北別府さん、どうぞ」あたりを御覧ください。普通に泣けます。普通に子供がオヤジの背中見てます。ほっとします。オヤジまじ気持ちわりい!と思わなくてすみます。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。