第39回『おやじの背中』

実はドラマ通こそ観るべきドラマだった

しかし。『おやじの背中』初回でいきなり父娘の近親相姦的親子関係を描いてみせるその挑戦的態度は決して暴投なんかじゃなかったんです。続く坂元裕二脚本役所広司満島ひかりの近親相姦的アクションドラマである第二話、倉本聰脚本西田敏行の家族群像劇である第三話と「親父の背中はいつ出てくんだよ?」と視聴者を混乱させた冒頭を見ても分かる通り、超一流脚本家はそんな大人しくテーマどおりの作品を出してきたりはしないんですよ。一流作家なんて性格極悪のエゴの塊ですから、他が何を出してくるか気になるんですよ。自分の個性を最大限発揮しながらも誰より目立ちたい。なので最高に奇をてらったり、周りが奇をてらうことを見越して王道を行ったりと、オヤジの背中どころかオヤジが目尻下げて娘追っかけまわすみたいな話にしちゃったり、それオヤジ、いた?て話まで出てきたり、毎回毎回軸を限界まで揺さぶってくる。そこがこのオムニバスドラマの面白いところで、一話完結だから視聴者を掴みづらいという足かせを越えてまで見せたかったものは、脚本家の力、役者とのコラボレーションといったドラマの真髄なわけです。ものすごく挑戦的。はなから視聴率度外視だったのか?と疑いたくなるほどです。

ただそれは『ごめんね青春!』が全く視聴率をとれなかったのと別の意味の低視聴率で、表面的には「企画が滑った」としか思われない。クドカンの場合だったらどんなに数字が低くても評価は下がらないし「この枠みてる視聴者がバカだから数字が上がらないんだ」ぐらい高飛車でいられますけど、『オヤジの背中』ですもんね。どう考えても『とんび』とか『おやじぃ。』とかド直球オヤジ盛りに見える。それでコケたら「ああもうTBSおしまい」としか見えない。

なんでこんな地雷を自分で仕掛けてわざわざ踏みに行ったのか?企画が「オヤジ」じゃなければ多分、ドラマ通が「おおっ!?」と思わず目を止めるような、そんなドラマになった可能性もあるんです。それを日曜劇場お家芸のオヤジ縛りにしなくちゃならなかったところにどんなオヤジの事情があるのか?分からないですけども、この強烈なオヤジ縛りがあったからこその脚本家の強烈な反逆心を煽り、その結果このへんてこな、若干引いてしまうような強烈なオムニバスドラマができあがったんですよ。ある意味オヤジに感謝、です。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。