第30回『猫弁―死体の身代金―』

切ないけど爽やかな、気持ちのいい孤児物語

『猫弁』で吉岡秀隆演ずる百瀬太郎の大きな特徴のひとつに孤児であることがあります。いいですねーこの孤独感!吉岡さんの十八番です。しかし、今回の孤児要素に限っては、吉岡スペックのカバー範囲内であるのか微妙というか、いつもの孤独感とはちょっと違う。その不思議な雰囲気が、『猫弁』に通底する重要な要素となっているんです。

百瀬太郎は7歳までアメリカで母とともに暮らしていましたが、帰国したある日、施設へと連れていかれます。

「万事休すのときは上を見なさい。すると脳が後ろにかたよって、頭蓋骨と前頭葉の間に隙間ができる。その隙間から新しいアイデアが浮かぶのよ。」

そう言って母は、おじいちゃんの形見であるメガネを彼に残して去っていくのです。この母の声をエヴァンゲリオンで有名な林原めぐみが演じているのですが、切ない!7歳の我が子を捨てるシーンなのに、そこで感じられるのは非情ではありながらもやっぱり母の愛らしきものなのです。百瀬先生も「母は私を愛していたのだと思います。だから最善の道を選んだ」と言って立派に育ちました。弁護士になれば、いつか母を助けられるかもという施設長の言葉を信じて。人を憎まず根気強く、最終的には皆が納得するよう万事丸く収める。そういう弁護士になりました。泣けるわ―もうこう書いているだけでも思い出し泣き!!

このドラマは推理ものの2時間ドラマですが、誰も死なないんです。その代わり、寂しい人が一杯出てくる。その寂しい人の手が少しずつ繋がって、暖かいものに変わっていくんですね。で、真ん中にいつもたくさんの捨て猫たちがいて、猫たちを幸せにしようと奮闘する百瀬先生がいて。彼が通う結婚相談所の鬼軍曹、大福さん(杏)とのラインが意外な展開をみせるのも面白い。とにかく、全ての切なさが暖かい方へ流れていくところが、このドラマ最大の見せ場です。

そして最大のキーポイントはやはり吉岡さんの荒ぶる髪の始末でしょう!野放しだった純君から始まって、スダレ効果に特化したDr.コトー、敢えて限界まで膨らませてダメ作家感を出した茶川先生に続いて、今回はスパイラルパーマという意表をつく処理です。不思議な事に、100%ナチュラルに膨らませた茶川先生よりも、スパイラルという強い個性を加えたほうが優しい印象になるんですよ。猫がモミモミチューチューしたくなるような、何とも言えない巣箱感の演出です。これは意外中の意外、やっぱり成功する吉岡ドラマの芯には、彼の髪があるのですね。

くるっくるの髪の百瀬先生が日夜面倒を見ている猫たちですが、猫のいいところはバカなところですね。ガチ喧嘩しててもおバカ臭は拭えない。残念ながら、猫のいる家にサンタは絶対来ません。ツリー倒しちゃうからね。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、二度寝などなど。