不敵な笑みと「自分語り」の効果とは
第1話は犬が車にはねられるシーンから始まります。辛そうに鳴く犬の声を聞きつけてやってきた下院議員のフランシス・アンダーウッド(ケビン・スペイシー)は、カメラを見ながら視聴者に話し始めます。
「痛みには2種類ある。成長に必要なものと、ただつらいだけの無益な痛み。私は無益を憎む。こんな時必要なのは、不快に耐えやるべきことをやる人間だ」
そして、何やらぐっと手に力を入れているような顔、一層辛そうな犬の声……「ほら、もう痛くない」と不敵な笑み!素手で犬を殺せるレベルの悪徳政治家のカメラ目線に、冒頭から重いやつをボディーに食らった気分になるのです。(犬好きならば即テレビを消しかねないオープニングですが、実際のスペイシーさんはこんな感じのいい人なのでご心配なく)。
「カメラ目線」と「視聴者への語りかけ」はこのドラマの大きな特徴のひとつ。この「ハウス・オブ・カード」はイギリスのBBCで1990年に放送された大ヒットドラマのリメイクなのですが、本家が採用したシェイクスピア『リチャードIII世』の手法である「主人公の観客への語りかけ」をアメリカ版も踏襲したのが効いてます。この手法によって視聴者と主人公フランクの距離はぐっと縮まり、成功のためなら手段を選ばない悪徳政治家の世界へ否応なしに引き込まれていくのです。殺生のシーンに続いて設定や登場人物が一気にフランクの語りで説明されるシーンはまるで演劇のよう。そしてオープニングテーマ直前にフランクがとびきりのカメラ目線で決める
「Give and take. Welcome to Washington」
の台詞はもう、あーこれから金とか乱れ飛んで国家権力で人の命とか蟻を踏みつぶすようにむげにされていくんだろうなーとゾクゾクします。
ストーリーは、次期国務長官を約束されて大統領選の泥仕事を請け負っていたフランクが、大統領が当選してみたら自分のご褒美は反故にされたのがわかり、「この屈辱を忘れるな」を合言葉にあらゆる汚い手段を駆使して出世の階段をのし上がっていくという典型的な政治スリラーです。登場人物が皆人間臭く、それぞれに野望があって、誰も「いい人」がいないのが面白いのです。最近このウリ文句はその辺に溢れかえってますけどこのドラマは特にうまく行ってます。私のお気に入りは議員ながらアル中とドラッグ中毒を隠している薄毛のイケメンピーター・ルッソ(コリー・ストール)。彼は登場人物のなかで最も弱くて人間臭い。まともな良心を持っている数少ないキャラクターながらとにかく誘惑に弱く、すぐ罠にはまるし泣くし弱音だらけだし、つい同情してしまうのです。彼がフランクによってどのように人生を狂わされていくのか、そこも見どころのひとつです。