その③ オオサンショウウオというけれど、山椒の匂いはしなかった

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四本足は机以外、飛ぶものは飛行機以外、泳ぐものは潜水艦以外、なんでも食べてしまうと言われる中国人。旺盛な好奇心(?)から、あらゆるものを食材としてしまう中国だから、オオサンショウウオも一般的な食材なのかと思いきや、さにあらず。

中国でオオサンショウウオは第二類保護動物に指定され、日本と同様に食べることは法律で禁止されていました。

しかし、日本と違っていたのは、中国ではある種のオオサンショウウオは養殖されており、それに限っては食べることができるということでした。

ちなみに、日本の固有種であるオオサンショウウオと、中国で養殖されているオオサンショウウオは、同じオオサンショウウオ科に属するものの、種が異なっています。厳密に言えば、中国で食べられるオオサンショウウオは、日本で保護されているものとは別のものですが、オオサンショウウオを食するという行為自体、日本では体験できないことでしょう。

中国で食用とされているオオサンショウウオはは、捕まえた時に赤ん坊のような鳴き声を出すという俗説から、「娃娃魚(ワーワーユー)」(娃娃=赤ん坊)とも呼ばれています。

さて話は戻り、養殖業者から連絡を受け、半信半疑で現場へと向かった弓田さんは、ついに長年追い求めていたオオサンショウウオとご対面します————。

    *    *    *    *

野田 養殖場へは半信半疑で行かれたと。

弓田 本当に正規の養殖モノがあるだなんて
   この眼で見るまでは信じられませんでしたよ。

野田 しかし、そこに実際にいたわけですね。
   どんな様子だったんでしょう?

弓田 2メートル四方くらいのマス目になった
   生け簀の中に10匹くらいずつ。
   生け簀にはサンショウウオの半身くらいの
   高さまで水が張ってあって。

野田 すごく両生類っぽい感じですね(笑)

弓田 姿かたちからして動きが鈍いのかと思っていたら、
   生け簀の中でビシャビシャとけっこう活発に
   動いていたのが意外でしたね。

野田 大きさとしてはどれくらいなんですか?

弓田 今回仕入れたのと同じ4〜5キロくらいが普通のようですが、
   生け簀を見ると、もっと大きいのもいましたね。

野田 うーん、大きければ美味しい、
   という感じはしないですよね。

弓田 そうですね。大きければいいというわけでもない。
   動物ですからね。
   年を食ったのは美味しくないでしょうから。

野田 なるほど。

弓田 かといって小さいのもまだ脂が乗っていなくてダメでしょう。
   4〜5キロの大きさのものがちょうどいいようです。

野田 で、当然値段の話になりますよね?

弓田 ええ、もちろんそうです。
   キロあたり1,000元近い値段を言われましたが、
   闇値を知っていたので、まあそんなもんかなと。

野田 闇値を(笑)

弓田 判断基準はありましたね、おかげで。

野田 そのとき、養殖場では見ただけですか?

弓田 試食はさせてもらいました。
   まずは食べてみてくれ、ということで。

野田 そこではじめてオオサンショウウオを食べたわけですよね?

弓田 そうです。長年想い続けいていたのが、ようやく。

野田 どんな気持ちだったんでしょう。

弓田 とにかく好奇心しかなかったですね。
   どんな味がするんだろうかと、それだけです。
  
野田 出されたのは当然、中華ですよね?

弓田 もちろん。
   肝を使った料理と煮込みだったんですが、
   ちゃんと下茹でをしてなかったんでしょうね、
   もう、身が硬くて。

野田 美味しくなさそう……

弓田 ええ、ちょっと残念な味でしたね。

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野田 そういえば魯山人の本の中にも
   「長いこと煮たが、一向にやわらかくならない」
   と書いてありますものね。

弓田 料理法に問題があるのは明らかでしたね。

野田 そのへんはカンでわかるわけですね。

弓田 それに彼らには皮と身、脂身を分けて食べるという考え方がない。
   料理のしようで食べ方はいくらでもあるはずなのに。

野田 和ならもっと美味くできる、と。

弓田 そうですね。とりあえず食べてみて、
   これなら和食のほうがずっと美味く調理できる、
   もっといいスープが取れると確信しました。

野田 スープといえば、クセがなくて驚いたんですが。
   オオサンショウウオというくらいなので、
   山椒の風味があるのかとばかり。

弓田 そうなんですよ。

野田 魯山人は「腹を裂いたとたんに、山椒の匂いがプーンとした」
   「おそらく山椒魚の名はこんなところからつけられたのだろう」
   と書いていますけれども。

弓田 最初にさばいたときに、それを不思議に思ったんです。

野田 ちょっと肩すかしというか。

弓田 日本のものとは種類が違うからなのか、
   養殖物だから天然物とは食べるているものが違うからなのか、
   そのへんはよく分からないですね。

野田 オオサンショウウオだけれども、
   山椒の匂いはしない、と。

弓田 そのへんは魯山人の本とは違いました。

野田 実際に食べてみた印象としては、
   本当にクセのない味だなあ、というのが
   正直なところなんですけれども。

弓田 ええ。スッポンみたいな泥臭さもないですし。
   
野田 魯山人の書いているような、強い山椒の風味
   というのも感じてみたかった気もしますが。

弓田 そうですねぇ。それが残念といえば残念です。

    *    *    *    *

長年恋い焦がれ、追い求めていた幻の食材についに対面した弓田さん。みずから包丁を入れ、さばいたオオサンショウウオは、少しばかり魯山人の表現とは違うものでした。とはいうものの、料理のイメージははじめからできていたという弓田さん。さあ、実際に作った料理は、果たしてどんな仕上がりだったのか。

(取材・文/大室衛)

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