第6回『ファンタスティック・カップル』

代理店とかテレビ局とか、大人の思惑と韓流利権の思い出

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さて今週お届けしますのは、2006年制作の韓国ドラマ『ファンタスティック・カップル』(全16話)。原題は『幻想のカップル』といいますが、この微妙な邦題は多分、2010年にフジテレビの「韓流α」で放送された時に中の人が考えたのでしょう。

皆さん韓流αを覚えていますでしょうか?お昼の2時から5時までぶっ続けで韓流ドラマを放送し、煽りに煽って第二次韓流ブームを作り上げた上に、ネトウヨの皆さんの嫌韓デモを誘発して自らブームを潰してしまったドラマ枠です。あの時のフジの韓流ブーストは、今の嫌韓ムードからすると信じられないぐらいの力(りき)みようでした。暇な主婦はイケメン見せときゃ金搾り取れるぞと目論んだのでしょうか?そんな腹黒い奴らにまんまと乗せられた香ばしい日々を遠く偲びつつ、韓流αで放送された一本のドラマをご紹介したいと思います。

 

あの「美男<イケメン>ですね」の。
『ファンタスティック・カップル』は韓国のラブコメ脚本家のトップランナーであるホン姉妹が、デビューから三作目に書いたヒット作です。彼女たちは本コラム第4回『パリの恋人』のレビューで紹介した韓流ニューウェーブの中心的作家の一組で、2005年のデビューから現在までほぼ連戦連勝を続けております。そして、日本で二番目に有名な韓流ドラマの脚本家としても知る人ぞ知る存在です。皆さんご存知、チャン・グンソクブームを巻き起こした『美男<イケメン>ですね』の作者なのであります。フジの韓流αは『美男イケメン>ですね』『ファンタスティック・カップル』『最高の愛』と3本もホン姉妹の作品を放送しており、なかでも『美男<イケメン>ですね』は3度放送して美味しい汁を吸いつくしました。フジテレビは半島方面に足を向けて寝られない、はずですけど寝てますね今は。

ホン姉妹の作品はアジア全域で人気があるのですが、その作風の特徴は「無国籍テイスト」であること。格差のある男女が最悪の出会いをし、嫌い合っていたはずなのにいつしか…というお決まりの展開ばかりなのはいかにも韓流ドラマ。しかしお約束が韓国独特の価値観に根ざしたというよりも、どの国のラブコメにも共通するという点が特徴なのです。韓流特有のドロドロした感じが全然ない!韓流ドラマの代表格でありながら韓国的ではない、そこがホン姉妹作品の最大の魅力と言えます。

 

異色のギャップ萌え
このドラマはゴールディー・ホーン主演の『潮風のいたずら』のリメイク作品なのですが、高慢な大富豪の女が小さな工務店を営む男と小金を巡って諍いとなるが、女が事故で記憶喪失になってしまい、そんな彼女を病院で見つけた男が復讐のために彼女を家に連れて帰り、家政婦代わりにこき使おうとするものの、何もできない女に家を引っ掻き回されて、という話。これまたいかにも韓流ドラマな設定ですけどほぼ原作どおりの筋書きです。
韓流お決まりの記憶喪失が出てきて、後に物語を暗転させるのもやはり記憶喪失なのですが、この使い方が大変スマート。こんなに記憶喪失をきれいに使った韓流ドラマは他に見たことがありません。

最大の見どころは、ホン姉妹独特のテンポが生み出すマニアックな笑いがつまびらかにしていく、主人公のサンシルの「ビフォー・アフター」。いかにもマダム然とした記憶喪失前の様子からは想像がつかないアフターの崩壊が、ひたすら面白いのです。ふてぶてしい歩き方と口調には高慢さの名残が見えるけど、口の周りを真っ黒にしてジャージャー麺にかぶりつき、何かというと意味なく全力疾走する主人公がとにかくかわいい。普通ラブコメというのは王子役の俳優のツンとデレのギャップに萌えるものなのですが、このドラマに関しては、女優のビフォーアフターのギャップに萌えるわけです。母性本能をくすぐる異色の女子キャラは、一見の価値があります!と書くと肝心のラブ要素がなさそうですが、そこもちゃんとありますのでご心配なく。

 

韓国女性が望むもの
このドラマの金持ちキャラは男性でなく女性だったので、その女性の描かれ方で韓国女性の望むものが露骨に見えてくるわけです。それは、
1)美貌
2)海外在住歴、英語力
3)学歴
4)夢のような恋
5)お金
この5つに集約されます。そして韓国人が他の国の人よりずっとアグレッシブに獲得しにいくのもこの5つのように思えます。1)は美容整形の普及、2)はフィリピン英語留学市場を開拓するほどの英語熱、3)は世界で最も苛烈な教育熱という形で世に知られていますが、努力しても得られないのは4)と5)でしょうか。なので韓国ドラマでは、執拗に「財閥子女」が描かれるのでしょう。まるで最高の恋の相手は金持ち以外にありえないとでも言わんばかりです。

韓国女性憧れの的という意味では、サンシルを演じたハン・イェスルはうってつけでした。アメリカ生まれのアメリカ育ち、大学ではコンピューターグラフィックを学び、モデルから女優デビュー。現在も自宅はカリフォルニアです。きっとご実家も裕福なのでしょう。まさに韓国人女性の夢を体現したような女優さんですが、この後主演したドラマで撮影中にキレていきなりアメリカに帰ってしまうという前代未聞の不祥事を起こし、当然ドラマは打ち切り、そのまま干されてしまいました。韓国人の芸能人の叩き方は半端ないですから、命があっただけでもめっけもんでしょう。

ホン姉妹のドラマでスターになった痛い人という意味では、実はあのチャン・グンソクもそうです。彼は予てから韓国では「うぬぼれがイタすぎる」として反感を買いがちな俳優で、しかしそれが『美男ですね』にバッチリはまって日本で大ブームになったわけです。『ファンタスティック・カップル』の視聴率が20%を超えたのに対し、あのドラマは韓国では一桁。相当コケたので、嬉しかったでしょう。その後も日本市場を当てにしてか、同じようなキャラばかり演じて手がつけられないぐらいコケつづけていて、おまけに最近おでこが激しく寂しくなってきて、どうにも再起不能な雰囲気です。ハン・イェスルはいよいよ「韓流スター」としての海外展開を基点に芸能活動を再開するようで、グンちゃんも日本に公式グッズショップを作ったり、フジにバラエティー番組をやらせてもらったりと、決して日本に足を向けて寝たりせずに頑張っていますがどうなんでしょうね。昔はフジが局をあげて彼を売りだしていましたが、今は?フジはもうあちらに足向けちゃってますしね。演技ができる人だけに、早く日本の思い出は忘れていただいたほうがよさそうです。日本で彼を盛り上げてた担ぎ屋さんたちも、なんなら彼にお熱だったお茶の間の奥様たちも、とうに彼を忘れていますから。

しかし今日、一歩も外に出てないな。昨日も出なかったな。家族以外と口聞いてないなここ数日。私も社会に忘れられてるのかもな、とうに。

ファンタスティック・カップル(2006年/全16回)

松下祥子@猫手舎
WEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスや広告にこまごまと参加。得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、動物、昼寝などなど。