第41回『ゾンビ・アット・ホーム』

一体自分は、どこへ帰ればいいのか

ゾンビのくせに女の子みたいなかわいい男の子が主人公なんていうドラマをわたくしが紹介するとなると、全くあらぬ方向に話が進んでいきそうですが、このドラマの面白いところはゾンビがゲイ……じゃなくて「ドラマが社会派」であるところなんです。

物語はゾンビが若い女の子に襲いかかるという想定どおりの絵から始まります。が、実はこれ、肌も瞳も真っ白の、まつげばかり長い、異様な容姿のキーレン君が見たフラッシュバックなんです。彼はどうやら、リハビリ施設のようなところで「部分死症候群(PDS)」患者と呼ばれ治療を受けているらしい。で、毎日の服薬を続ける限りは「病状」が寛解したとみなされ、普通の人を装うためのファンデーションと茶色のコンタクトレンズとともに、故郷の田舎町へ帰されるのです。

世の中的には、いまやゾンビは差別語。彼は公式には病人です。イギリス政府は国家を上げて治療と元いた地域への帰還を奨励しています。しかしゾンビとして周囲の住人を食べちゃっていたわけですから、地元民特に自警団の皆さんの拒絶反応は最高レベル。そこから始まるシリアスすぎるお話が、全3回という短い展開できりっと描かれるのです。題材と短さもあって、ドラマというよりは長めの映画のよう。

一体キーレンはこれからどう「生きて」いけばいいのか?自分は本当に「患者=人間」ってことでいいのか?地域で自分の居場所は見つかるのだろうか。彼を殺そうと狙っている自警団とどう折り合いをつけていくのか。

こう考えると、この物語はゾンビものというよりは、まるで「刑期を終えた凶悪犯罪者を社会にどう戻していくか」みたいな話です。ホラーやパニックものとは似て非なる骨太なストーリー!ここまで最初の印象を裏切られる話、いままで私は見たことがないです。特にシーズン1のラストは衝撃、そこからの号泣です。テレビのなかで犬がキュンキュンいうだけで滝の涙を流す私の性癖を差し引いたとしても、ぐっときてホロリぐらいは来ると思います。字幕なしなんですぐ嫌になることを想定しつつ、触りだけ楽しんでください、こちらエピソード1本編。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツの企画運営を始め、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、二度寝。