第40回『ハケンの品格 × オフィスの女王』

「韓流あるある」で捨てられなかったもの

韓流ドラマをいくつかご覧になったことがある方ならすぐに気づくと思うんですが、ドラマのなかに判を押したように同じ設定が入ってきたりするんです。この「判」の部分が韓流ドラマでは大変重要で、なんだかんだでこれがいっぱい入っているドラマは愛される。さすがに若い世代には全部盛りは敬遠されがちですが、でも全部抜きというのはありえないんです。

いくつか私が気づいた「韓流あるある」を紹介しますと。

・出会いがバイオレント
・世間知らずの御曹司
・平凡でけなげな女子
・なりゆきで同居、契約結婚
・よそ見運転
・手料理、弁当差し入れ
・貧乏な家のお父さんは酒乱
・酒乱がいる家のお母さんはボコボコ
・継母
・金持ちの服が変
・30超えても結婚まではチューだけ
・母(オンマ)だいすき
・おんぶ=恋
・泥酔
・好きな女には歌を捧げる
・交通事故
・記憶喪失
・秘められた過去
・超難病
・離島にいけば最終便を逃す
・ださい部屋着でドキドキの一夜
・出産に偶然立ち会って問題解決

演出でいうと途中からメインキャラ別に愛の挿入歌が入るとか、まだまだいっぱいあるんですが、これらお約束を削りまくった『オフィスの女王』において、いくつか残ったうち最大の韓流あるあるが最大のオリジナル部分でもありまして。それは韓流に不可欠の「秘められた過去」部分。内容はこんなかんじです。

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韓国春子が銀行勤めの正社員時代に母のように慕っていた非正規雇用の先輩がいて、その先輩が2007年の法改正を前に解雇を言い渡され、正社員含む行員たちがスト&デモ、兵役で武装警察のデモ鎮圧部隊にいた韓国里中が心ならずもその先輩に怪我をさせ、銀行では正社員が上司の圧力に負けて非正規行員を騙して行内に閉じ込め、何故か銀行大爆発、焼け落ちる行内へ先輩を助けようと駆け込んだ春子の足が燃え先輩も焼死、でその先輩が韓国東海林の母だった

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という、ねえ。盛りすぎて「へー」としか言いようがない感じだけど多分ここで韓国のお茶の間は嗚咽の嵐、カタルシスです。日本人にとっては春子が皆から寄せ書きバースデーカードを読んでこっそりむせび泣く的陳腐さのほうがずっと泣ける。やっぱり日本人は皆から浮くこと、嫌われることがめちゃくちゃ怖いんですかね??しかし韓国だと「性格悪いけど能力は完璧」な主人公は貧乏でDVな家で育ったか孤児か(本レビュー第2回参照)なので、「みんな君がだいすきだよ!」とか言われたぐらいで心の歪みが戻っちゃったらお茶の間が納得しないんだと思います。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツの企画運営を始め、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、二度寝。