第36回『心がポキっとね』

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現実味なくたっていいじゃない!な大人子供のラブコメディー

40代の男女がキャーキャーいいながら自分探しや恋愛に明け暮れる。これって実際にはありえないというか、40代独身でそういうことが許される立場にいたとしても、出会いが極端に少なくなって、そんな年で自分探しを始める人間は痛すぎてもう周りに人が集まらないというか。だからこそドラマの世界では、いつまでも青春でいられる夢を見ていたいものです。ということで今週は、痛さギリギリのアラフォー青春物語『心がポキっとね』(2015/全10回)を現在進行形でご紹介します!

 

何故失敗しているのか?なのに何故面白いのか?

今週ご紹介する『心がポキっとね』は、現在フジテレビ水曜22時枠で放送中のドラマであります。キョンキョンと中井貴一の『最後から二番目の恋』で人気を博した岡田惠和宮本理江子のタッグによる新ドラマ、ということで、ちょっとクセのある大人のラブコメとして期待を集めたとのことでしたが、最終回を控えて視聴率は開始当初の半分まで落ち込んでいます。平均視聴率6.82%。なかなかに厳しい惨敗ぶりです。とはいえ今期はその6.82より平均が低いドラマがプライムタイムに2つもあるという結構な荒野で、最低はフジ火曜22時の『戦う!書店ガール』で4.79%。なんと開始から今まで5%を超えたことが3度しかありません。これは平均3.9%で世間をどよめかせたまま打ち切りとなったオダジョーのドラマ『家族のうた』も視野に入ってくる数字で、『戦う!書店ガール』も戦うまでもなく打ち切りです。惨敗するとわかっているのにAKB主演ドラマが作られ続ける業界の闇の深さに背筋が寒くなりました。

と、話が横道にそれましたが『心がポキっとね』。なんといっても山口智子がこの19年間で2度目という貴重な連ドラ出演ということで、視聴率もなんとか初回は二桁発進でしたが、第二回からは右肩下がりに転げ落ちていき今や5%台が定位置です。理由は様々あるようで、裏が人気絶頂の堺雅人のドラマだったとか、阿部サダヲと山口智子に吸引力がないとか、水原希子が嫌われたなんて感じらしいですがしかし、実際見たら、そこまで面白くないわけじゃないんです。むしろ面白いと言ってもいい。私は好きです。くそ痛い斎藤工の『医師たちの恋愛事情』よりずっと観る価値のあるドラマじゃないかなと思います。斎藤工はダメだ。『昼顔』じゃ鼻血が出るほどほめましたが、もうすぐ消えてしまうことでしょう。

舞台は住みたい街ランキング殿堂入りの吉祥寺、井の頭公園周辺。仕事のし過ぎで精神を病み、社会との繋がりを断って生きようとしている春太(阿部サダヲ)、ストーカー行為で人生を壊してしまったみやこ(水原希子)、何事も深く考えられず中身がからっぽの心(藤木直人)、45歳になってもいまだ痛々しく自分探し中の静(山口智子)がひょんなことから同じ屋根の下に暮らすことになり、お互いの傷をほじったり舐めあったりしながら少しずつ成長していく的な、物語の展開としては特に目新しさはありませんが、特徴があるとすれば「メインキャスト4人のうち3人が何かしら病んだオーバー40」というところでしょうか。「自分探し」や「壊れた人」など現代人の抱えるトラウマを感じさせるテーマだけに、もっとぐいぐい斬りこんでくる話かな、と思ってしまうからつまらなく思えるんです。このドラマに重さやリアリティーを求めてはいけない。皆が憧れるおしゃれな街を舞台にしたおしゃれで軽妙でちょっと変わった大人のファンタジー。誰の胸のなかにもあるちょっとした傷が爽やかに描かれていて、見ていたら自分のコンプレックスもおしゃれに解消されそうな、美肌加工アプリみたいな、ちょっとだけ細長く見える服屋の鏡みたいな、インスタグラムに投稿した自分の写真みたいな、そんなドラマと思って観るとなかなかいい線行ってると思います。あとね、水原希子嫌いとか、山口智子の演技が古いとか、藤木直人は大根に違いないとか、そういう先入観を捨てること。一旦瞑想の後まっさらな気持ちで見れば、このドラマそう悪くはないと思いますよ。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。