第32回『デート〜恋とはどんなものかしら』

パーソナリティー障害アスペルガ=恋?

このドラマが異色だ奇抜だと散々言っておいてあれなのですが、よく見てみれば韓流ラブコメと見まごうようなコテコテのお約束づくしなんです。出会いは最悪、でもなりゆきで行動を共にするようになり、知らずのうちに惹かれ合った2人に横槍が!という、ね。しかし『デート~恋とはどんなものかしら』が今までのラブコメと全く違って見えるのは、「社会不適合者」「婚活弱者」問題を真正面から扱ったドラマであるからです。

ドラマ中、主人公2人は何度も「恋愛不適合者」呼ばれるのですが、実際にはアスペルガー(高機能自閉症)中年ニートという、社会全体から浮いた存在であります。彼らは処女や童貞を捨てるどころか交際相手を見つけることもできず、時には親からの自立もままならない。深刻化する社会問題とシンクロした設定がある種グロテスクなんです。しかし理系男性の典型と言われるアスペルガーを女性に当てはめ、行動の奇妙さに隠された「感情」の部分へと光を当てる。中年ニートは本来の姿つまり電車男な感じに「高等遊民」というオブラートをかけ、より視聴者女性の共感を得やすくしました。つまり、このドラマが胸を打つのは、常に社会から煙たがられる、時にお荷物でしかない2つの人格に、深く優しい理解と愛情を示したからなのです。

特に依子のアスペルガー的キャラクターの構築は見事でした。アスペルガーの人々は、場に適切な対応がとれず、コミュニケーションが一方的、人に関心を向けられない、生活の決め事が多くその全てに強くこだわる、繰り返しの模様や音に執着するといった特徴がある一方で、飛び抜けて優秀な才能も持っていることが多いと言われています。理系研究者として成功する人のなかには少なからずこのアスペルガーの人がいるそうです。

「あの子はなにも、好きっていう感情がないわけじゃない。好きなものはたくさんある。数字とか、幾何学模様とか、複雑な構造物とか、むしろ情熱的だ。その情熱が人間に向きにくいだけなんだ」

これは依子の父の言葉ですが、本人も周囲も気づかないまま大人になったアスペルガー、つまり依子の特徴をよく表していると思います。

彼女は父親のために結婚を目指しますが、内心「恋」というものに痛々しいまでの憧れを持っています。でも恋どころか人に関心を向ける方法すら分からず生きてきたのです。ただの変人だった序盤から、依子の心の奥深くへ分け入っていく中盤、後半への流れで、まるで感情がないみたいに見える彼女が他人との繋がりを希求していると示すあたりでは、同じく社会不適合者である私は切なすぎて嗚咽を止められませんでしたよ……。

自己愛性パーソナリティー障害を思わせる中年童貞の巧のキャラは、オブラートにくるまれた分少々わかりにくかったですが、物語が動き出すには、このスマートとは正反対の主人公2人に杏と長谷川博己といういかにもスマートな2人がピタッとはまらなければダメです。そしてこのドラマは杏の徹底的な色気のなさ、長谷川博己のよく見ると微妙な顔という負の特徴を遺憾なく引き出し、依子と巧に息を吹き込むことに成功しました。なので、無類に痛い2人が異様で無様なデートを繰り広げる第一回で、このドラマの「成功」は決まったようなものでした。たとえかなりの量の視聴者が脱落したとしても、です。

※本コラム3度めの登場ですが、アスペルガーな人を描いた名作といえばこちら『結婚できない男』も必見であります。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツの企画運営を始め、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、二度寝。