大根仁が『モテキ』で伝えたかったこと(ネタバレ)
『モテキ』をドラマ化するにおいて大根仁は、いくつか大きなオリジナル要素を入れました。若干散漫で女子目線の強い原作の枝葉を切り、男子を主人公とした物語としてスピードを持たせ、幸世の成長へと結実するラストへ向かうための変更です。
幸世は彼女ができない理由を自分のスペックのせいにして、終始受け身であることに目を瞑っているのです。ある時は勃起の赴くままに好きかどうか分からない子へ流れようとし、またある時は相手の気持ちが確認できないからといって事に及ばない。結局は自分の枠から出る気がない。この幸世の姿に物語どうを集中させるか、大根仁はそこに全力を傾けたように思います。
一番よかったオリジナルシーンは、幸世が一番好きだった小宮山夏樹(松本莉緒)の話の収束です。幸世はこのエピソードで、初めて他人の心に理解を示し、夏樹は初めて他人に心からの笑顔と涙を見せる。原作ではもっと刺々しいシーンだったのですが、同じ台詞を言いながら180度意味を変えた演出に、心から感動しました。そして、幸世が「けじめ」として実家から東京までチャリで疾走するラストも素晴らしかった!足を写してたら多分グルグルとなって見えないぐらいの疾走です。
「次は、おれが誰かのモテキになるんだ!」
原作と違い、幸世は誰とも結ばれませんでしたがそこがいい。なんとストイックで美しい終わりでしょうか。感情を爆発させた男子が自転車で疾走するシーンは、白馬が侍を乗せて波打ち際を爆走するシーンよりも迫力がある。この切なさ、愛しさは、生まれたばかりの仔馬が立つシーンよりも感動的です。そう、幸世は敢えてモテキを捨てて、自分の殻を破って、湯気を上げて足を震わせながら、30歳にしてやっと立ち上がったのです!
いつかちゃん(満島ひかり)のカラオケシーンにしても、下手な恋愛ものに一度も落とさなかった大根仁の意図はまさに、このドラマの芯が「殻を打ち破る」ことにあると端的に伝えるものであります。それを証明するのが、自転車疾走シーンのバックにかかるこのeastern youthの「男子畢生危機一髪」。青春!