第29回『モテキ』

『モテキ』は悔しいくらい最高の音楽ドラマである

この物語の一番素晴らしい点は、音楽の使い方。これはもう、絶賛するしかありません。原作でも章ごとのタイトルが実在するJ-POPから取られていて、実際ストーリーのなかでも歌詞の一部が描かれていたりします。が、いかんせんそこはマンガ。残念ながら、悲しいぐらいスルーです。

その点ドラマは音楽と切っても切れないものである上、脚本&演出の大根仁のセンスがもう「何このおっさん抱いて!」ってぐらいで、原作の31タイトルをドラマ用に12タイトルまで絞り込んだのがもう、TAICOCLUBなんてフェスに1人で行こうとしていた音楽マニアである幸世の世界、鬱屈とした生活から逃げ出したい幸世のテーマにばしーっと、これ以上ないくらハマっていて、そんな音楽がドラマ全体を引っ張っていくのです。

以下、全12話のタイトルつまりテーマ曲がこちら。

1.格好悪いふられ方(大江千里)
2. 深夜高速(フラワーカンパニーズ)
3.恋はいつも幻のように(ホフディラン)
4.はっきりもっと勇敢になって(岡村靖幸)
5.リンダリンダ(ブルーハーツ)
6.ロックンロールは鳴り止まないっ(神聖かまってちゃん)
7.スイミング(深田恭子)
8.永遠のパズル(橘いずみ)
9.NUM-AMI-DABUTZ(NUMBER GIRL)
10. 悪い習慣(キリンジ)
11. サマーヌード(真心ブラザーズ)
12. 男子畢生危機一髪(eastern youth)

これらタイトル曲とは別に、モテ曲、モテマンガ、モテドラマなどが挿し込まれるのですが、第一話の「カッコ悪いふられ方」の入れ方にしても、その底意地悪さったらない。男として最ダサな姿を小馬鹿にするようなカラオケ調ですよ。そこからさらに、爽やかオシャレなオザケンで恥の上塗りをされたら、どんなイケメンでもED確定です。

全体的にカッコイイ系のJ-POPが並ぶなか、80年代から90年代のべったべたな曲が採用されているのも見どころ。第二話のモテ曲、柴田恭兵の「RUNNING SHOT」なんて、聞いた途端にサングラスと肩パットスーツが超かっこよい時代だった『あぶない刑事』の世界に飛ばされる。次は同じ時代の名作ヤンキーマンガ『ビー・バップ・ハイスクール』の「鼻えんぴつ拷問」の絵で勃起を鎮めるというドラマ版オリジナルシーンに爆笑させられ、八話の『永遠のパズル』もまたすごくナチュラルな挿入っぷり。感動的ですよ。聞いた瞬間ダサいけど真剣に揺さぶられてた頃のダサい自分に引き戻される。このダサさにシンクロできる快感は、当時あんなにダサく歌ってた橘いずみだって全く想像できない未来だったでしょう。当時の花形であるドリカムには決して真似できない技です。この選曲、差し込み方こそを「演出の妙」というのですね。

そして第六話!!神回です。尖りすぎて泣けてくる青春の名曲『ロックンロールは鳴り止まないっ』を、我らが満島ひかりちゃん演じる中柴いつかがカラオケでシャウトする。本来いつかはさほどインパクトのある役じゃないんです。が、この大根オリジナルの演出一曲で、ドラマのコアをガシーっと掴んでしまったひかりちゃんの暴れ泣きは、神々しすぎて正視できませんでした。

いつかちゃんの歌う奇跡のシーンは本編(第6話コチラ)に譲るとして、この曲を知らない方のために元曲、神聖かまってちゃんの『ロックンロールは鳴り止まないっ』をどうぞ。ボーカルはプロ中二病みたいな方です。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、二度寝などなど。