第26回『ホームランド』

なんだかんだで精神疾患って絵になる

しかし、アルカイダのテロを防ごうとするCIA捜査官がバイポーラーであるという強引な設定はどこから来ているのか?この疑問について、ネットをウロウロしていたら「アメリカを中心にバイポーラーの診断が増えているので、いち早くその流行に乗っかったのではないか?」という興味深い推測を読みました。

精神医学にはトレンドというものがあって、ある時代にある疾患の診断例が増えるというのは昔からよく見られます。大抵そのトレンドがアメリカ発であるのも特徴です。最近話題のアスペルガー症候群(高機能自閉症)ADHDといった発達障害だけでなく、新型うつが問題となるほどうつ病の診断が増えたのも、アメリカ型のうつ病診断が一般的になったからだと言われています。バイポーラーも「双極II型」というマイルドな病態が定義づけられてからというもの、アメリカのみならず日本でもぐんぐん診断例が増えています。そういうトレンドにアメリカのドラマ制作陣がいち早く目をつけたというわけです。なるほどですね。

アメリカは昔から精神疾患を題材にした名作を多数輩出してきています。古くはヒッチコックの代表作『サイコ』シャワーシーンをどうぞ)。「極度のマザコン」や「サイコパス(反社会性人格障害)」といった、現在では定番のメンヘル素材を扱った作品の金字塔です。90年代の代表格といえば、ウィノナ・ライダーの『17才のカルテ』。トレンド疾患をウィノナやアンジェリーナ・ジョリー含むキュートな女子たちが熱演しました。中でも有名な疾患「人格障害」に関しては、好きな作家を監禁して好き放題やる『ミザリー』足ガーンのシーン)や、ちょっとおばさんと遊んだらすごい勢いで後を追っかけてきて怖い『危険な情事』といった作品へと結実しましたね。その他、学習障害、ADHD、自閉症、知的障害、サヴァン症候群、各種依存症などを中心に据えたアメリカ発の映画がヒットするたびに、アメリカ内外のドラマや映画でもそういう題材が増えるというムーブメントは今も続いています。何故でしょう、精神疾患を持つ人というのは当事者も周りの人も大変辛いですけど、映画やドラマで見る分には興味深いしかっこよくもある。日本でも近い未来にバイポーラーの天才物理学者なんて設定の謎解きドラマが出てくるかもしれません。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。