第26回『ホームランド』

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クレア・デインズが精神疾患のCIA捜査官を熱演!

アメリカのドラマは面白いんですけど私にとってひとつだけ欠点がありまして、それは「内容が難しい傾向にある」ということなんです。『24』なんかも勢いで見せられましたけど、意外と誰がどうなったのか分からないまま観てたり。今回とりあげる『ホームランド』(2011~)もアルカイダのテロを防ごうとするCIA捜査官の話。しかも『24』制作陣が大集結です。いかにもこんがらかりそうな内容ですが…どうなんでしょうか?視聴に影響しない程度のネタバレでご紹介します。

 

双極性障害(バイポーラー)って何?

いきなり軽くネタバレしてしまって申し訳ありませんが、このドラマのウリはクレア・デインズが双極性障害(バイポーラー・ディスオーダー)のCIA捜査官を演じたことなんです。この病名が明らかになるのはシーズン1終盤になってからで、しかしよほどそういう病気に詳しくない限り「で?」という感じでしょう。なのであらかじめ病気について知っているほうがドラマを面白く観られると思います。

このバイポーラーという病、古くは「躁うつ病」と呼ばれておりまして、統合失調症と並べて「二大精神病」なんて風に言われてた時代もありました。現在はうつ病とともに「気分障害」というカテゴリーにあるのですが、バイポーラーは統合失調症と同じく遺伝が関係している病気だと言われていて、やはり統合失調症と同じく発症すれば一生完治はありません。言うなれば「脳の病気」で、「こころの病気」であるうつ病と決定的に違うところです。マイナーながらもドストライクな精神障害を負った主人公というのは、ドラマではかなり珍しいと思います。

この病気の大きな特徴は「躁状態」にあります。エネルギッシュで攻撃的、不眠不休で活動し、思いついたことに猪突猛進する。激しく怒り、相手を罵り、泥酔し、性的に奔放になりすぎ、急に感傷的になり、突如激しく感動し、大きすぎる夢を語り、散財しすぎて借金を作ったりする。これがこのドラマの主人公であるキャリー・マティソンの大体の人格設定なんですが、症状が悪化しなければ、躁状態にあるバイポーラーの人は「天才的な人」に見えることもあります。バイポーラーだった著名なアーティスト達は、作品の大半を躁の時に作ったそうです。しかしある時、斬新だった切り口が妄言レベルになり、言ってることが突飛すぎて誰も理解できなくなったと思ったら急にいなくなり、「あの人入院したんだって」なんて噂が聞こえてきて……バイポーラーとはそんな病気です。

『ホームランド』でも主人公であるキャリーの「確信」が本物なのか妄想なのかよく分からない。彼女がテロリストだと決めつけて追っかけまわす元捕虜の海兵隊軍曹ブロディも、8年間のアルカイダによる監禁によって深刻なPTSDを負っている。行動がハイすぎてイカれて見える主人公キャリーと不安定すぎてイカれて見えるブロディーの不安定な追っかけっこがメインストーリーであるこのドラマは、かなり新しいタイプのCIAサスペンス物であることは間違いありません。

※バイポーラーらしき人が世に知れ渡った珍しい例として知られているのは、元復興大臣の松本龍氏。その真偽はさておき「躁転時のやっちゃった感」としてはかなりリアルな感じだそうです。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。