第23回『北の国から』

やはり日本を代表する名作ですよ!

このドラマの残酷さは、ファースト第1話第1シーンですでに際立っています。BGMのモルダウに乗せて、物憂げな令子(いしだあゆみ)の横顔に妹の雪子(竹下景子)が、五郎と子供たちが富良野へ発ったことを知らせるところから物語は始まります。

「可哀想で、子どもたちの顔、見ていられなかった」
「子どもたちに一体何の罪があるの?」
「私だって、子どもたちを力ずくでも奪い返したかった」
「悪いのはすべて私。でも、あの人(五郎)には東京は重すぎた」

陰鬱な表情でタバコに火をつける雪子。列車内で思いつめた顔をした五郎、無邪気にはしゃぐ蛍、そして途方に暮れた純の横顔。ここであの有名な手紙風のモノローグの初回「ケイコちゃん、今日、北海道に着きました」が入り、続けてああーーーあぁあ~~〜〜とさだまさしが歌い出すというもう、どうですかこの隙のない演出!この3分半の間に、この物語のお膳立てが全て揃っているのです。

五郎の負け犬っぷりが、冒頭で余すところ無く語り尽くされるわけですけども、この後も、自然溢れる美しい景色と味のある顔の町民、さだまさしによる楽しげなBGMによってごまかされてはいるものの、ちょっと文化的なテイストが入ってくると急にチグハグした印象になって、いかに五郎が現代社会から浮いてしまっているかが分かるのです。

五郎が令子と別れるきっかけとなったのは、蛍と一緒に妻・令子の経営する美容院を尋ねたら、スリップ姿の令子が誰かとタバコをくゆらせていたからなのですが、純も母が普段は吸わないタバコの灰を落としそうになりながら長電話しているのを偶然見て何かを察知するのです。母は、女の顔になる時だけタバコに火をつける。献身的に純や蛍の世話をする雪子だって、不倫の恋を思い出す時はタバコを手に取る。タバコの持つあばずれ感をこうも紋切りで押し出す演出が美しく決まるというのはすごいです。タバコと一緒の令子の絵一発で家族の破綻が切り取られる名演出なのでありますが、名演出の極みが世界に誇るあの名シーン「子供がまだ食ってる途中でしょうが!」なんですね。もう一回リンク貼っときます。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。