第20回『ブレイキング・バッド』

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米ドラマ史上最高の完成度で贈る中年デビュー物語

先週一週間お休みをいただきましたのは、今回ご紹介しようと思っていた『ブレイキング・バッド』(2008~2013 全5シーズン)が素晴らしすぎて、最終話まで観たい欲求を止められなかったからなのです。今週は人をおちょくったような態度すら出せません。ただひたすらにSTRONGLY RECOMMENDでいきますよ!

 

荒野に白ブリーフ一丁の男

物語は主人公のウォルター・ホワイト50才が白ブリーフにガスマスクという姿でキャンピングカーから転がり出てくるところから始まります。気の毒なぐらいテンパってるこのおじさんは半泣きで家族への遺言ビデオを撮り始めるのですが、その切羽つまった様子とは裏腹に、持ちなれない銃を白ブリーフから取り出して構える様は限りなく滑稽です。

ウォルターはカルテック出身でノーベル賞に貢献したほどの化学者でしたが、今は平凡な高校教師。生徒に舐められ、家計の足しにとアルバイトしている洗車場でも軽く扱われ、11才年下の妻は愛情深いけどちょっとうざい。15才の息子はハンサムでいい子だけども障害者で、何かと同級生にからかわれる。そんな冴えない日常も幸せな毎日だったと、ウォルターは肺がんで余命宣告されたときに知るのです。失意のなか彼は、最愛の家族にお金を残そうと、天才的な化学の才能を使って麻薬製造に乗り出すのですが、そう簡単にことが運ぶはずはなく、ずぶずぶと裏社会の深みに……という、ざっくりいうとこんな話です。

トミー・リー・ジョーンズを小者にしたようなウォルターと、ウディー・ハレルソンが女装したような妻スカイラー、そこに本物のイケメン障害者扮する息子ウォルターJr。ウォルターの悪事の相方となる元生徒の売人ジェシーもベビーフェイスがおバカっぽくてハマっています。無名な役者ばかりを集めたそうですが、そこがなおさら「小さくてしょっぱいけど善良な日常」の崩壊をリアルにするのです。

ガンによってワルデビューしたウォルターですが、超えても超えても迫り来る高すぎるハードルにやられっぱなしです。あまりに手際が悪いので、毎回何かしら大失敗するからです。その顛末はなるほど素人が麻薬製造なんかに手を出したら陥りそうな失敗ばかりで、毎回「どうすんのこれ」と呆れ果てるわけです。「えらいことになってる」感が半端ない。ただただ目の前の無様で滑稽な惨状に、途方にくれつつ惹きつけられる。特にシーズン1第三話のラストはアメリカドラマ史上屈指の「どうすんのこれぇぇ!!」でした。雰囲気的にあれに似てるんです、90年代アメリカ映画を代表する迷作『ファーゴ』の、ダサクールでバッドエンドへ転がり落ちていく感じに。そんな個性的すぎる物語の幕開けを、第一話冒頭の白ブリーフ一丁姿ひとつで描ききった。鳥肌ものです。白ブリーフはかくも偉大なり。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。