第18回『白い巨塔(韓国版)』

いい里見と悪い里見

今回このレビューを書くにあたって、韓国版1話65分全20話日本版1話45分+α全21話原作5巻読書所要時間計15時間を4日で踏破するという死にも等しい犠牲を払ってたったひとつだけ気づいたことがありましてね。それが、3つの『白い巨塔』を比較することで見えてきた、従軍慰安婦問題で韓国がずっと絡んでくる根本的な理由でした。

なんて重い話はおいといて、まず唐沢財前の話を。黒目がでかくて魅力的です。日本人が大好きな色悪全開。四谷怪談の田宮伊右衛門などのいわゆる「アンチヒーロー」は、日本人が昔から好むキャラのひとつですね。原作の財前五郎はすぐ舞い上がる割にビビリというみっともない面もあるのですが、唐沢財前は常にテンパり気味ながら色悪に徹したのがよかったです。これに対する韓国財前(キム・ミョンミン)は、色悪要素が少々控えめ、ビビリなところも出ていて人間くさい。子猫ちゃん妻をあやす時のデレ具合が意外とかわいく、強烈な上昇志向の裏にあるマザコンな動機も盛り気味に描かれてあります。

原作とはっきり違う特異な要素は財前と里見の関係性です。これは唐沢版も同じで、それぞれの作品独自の味付けという点で重要な意味を持っています。原作の里見は意外といやらしい男で、財前に対してもひたすら厳しいだけですが、唐沢版では里見(江口洋介)を唐沢財前の前に立ちはだかる「理想の人間像=父」として脚色したように見えます。江口里見は超がつく頑固者だけど、一切言うことを聞かない息子に振り回されっぱなしの優しい父のようです。一方で韓国里見(イ・ソンギュン)はちょっと暑苦しい。直情的で、情が深くて義理堅くて、韓国で好かれる典型的な「いい奴」キャラです。泥酔して財前の前で「わぁぁぁ!!」と暴れ泣きして、財前が「落ち着きなさいよ、もー」と諭したり。わりと普通に「親友」なんです。

そして唐沢財前は、病に倒れた後は「父」である江口里見にすがり、最後は里見の名を呼びながらこの世を去る。唐沢版では主役2人の関係に日本伝統の父権社会、父と息子の断絶と絆を重ねあわせたように見えました。それに対する韓国版のアンサーが「男の友情」であり「母系社会」の縮図です。韓国では男同士の繋がりが日本よりずっと濃厚だそうで、また家族における母の力も絶大だとのこと。完璧ないい人を1人も登場させず、人間の醜さを暴く原作の『白い巨塔』を韓国風にするのに必要だったのは、「母と友への愛は永遠」という要素でありました。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。