第16回『Dr.コトー診療所』

腹は「人情」で切れ!

医療ドラマといえば、見どころは手術シーンです。Dr.コトーの手術シーンは大変「日本的」です。まず患部を見せない。血もほとんどない。『医龍』なんて内臓出しまくりですが、そういうのやってもアメリカや韓国には勝てないわけです。で、コトーがスプラッタの代わりに手術で何を見せるかというと、人情です。このドラマは典型的なヒューマンもので、素朴な島民との触れ合いシーンの基底には常に人情がある。コトーの診療なんて、人情が白衣着て歩いてるようなものです。なので手術になっていきなり臓腑と血のりがバーンじゃ人間感なさすぎでこっちも引いてしまう。

彼は天才医師なので(ここも安心のテンプレート)、普段は子供みたいな滑舌の悪さで声も裏返り気味なのに手術じゃ急に声が低くなる。ぴしっとします。ああ凄腕だなあと一瞬でこちらも理解したところに、彼が患者そのものの生活にカスタマイズした手術をしていると分かってくる。それを吉岡氏のうつむく手術姿だけで見せるのです。素晴らしい。氏の存在感、演技力は顔が映らない時に一番映えることを、最大限利用したシーンです。吉岡氏の特性とコトーのキャラクターがあまりにも一致しているため、視聴者がドラマの世界観に疑問を挟む余地がないわけです。まるで当て書きされたような、マンガ原作のドラマであることを忘れるくらいのリアリティーです。

そんな手術シーンの第一回は、伝説の船上手術です。物語序盤最大の「敵」である漁師の原剛利を演じるのは時任三郎、がっしりした色黒の容姿と劇画調のお顔が映えます。剛利は訳あって医者を憎んでいるのですが、息子の剛広が盲腸で倒れ6時間離れた本土へ連れて行こうとした漁船に無理やり乗り込んだコトーが揺れる船上で手術をやりとげてしまいます。これからコトーが成し遂げていく偉業を1シークエンスで語ってみせる名シーンです。このシーンはしかし、時任三郎なしでは成功しなかったのです。あの容姿、ちょっと自由度の低い演技は硬派なキャラをやるために生まれてきたような、それしか出来ないようなハマり感。時任氏演じる剛利の男気とコトーの屁たれ感のシナジー効果は、腐女子の皆さんのやおい熱を劇的に刺激したみたいで、ネット上に「剛利コトー」のいけないストーリーが溢れかえりました。時任三郎、すごい俳優です。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。