※当連載は、一季出版が発行するゴルフ業界誌『月刊ゴルフマネジメント』へ、当サイト管理人の野田道貴が寄稿したものを転載しています
中国経済はここ20年ほどで、歴史上類を見ないスピードで成長を遂げ、いまやGDPでは日本の上を行く国家となりました。筆者が上海に移住してからわずか8年の間でも、まるで別の国に生まれ変わったかのような変貌を遂げています。
いまさらながらですが、この連載の大テーマは「中国ゴルフマーケット」です。成長市場である中国において、ゴルフがどのような形で発展しているのかに焦点を定め、日本のゴルフ業界がアプローチできる領域を見つけ出すヒントになれば、という想いでこの連載を綴っています。
ところが最近、どうもその思惑がズレてきているような気がしてなりません。中国の経済成長自体が頭打ちになってきていることは日本でも報道されていますが、停滞期を迎えたときに、成長しきっていないゴルフ市場はどうなっていくのだろうか、ということについて、真剣に考えなくてはいけない時期に来ているのかもしれません。果たしてゴルフマーケットも、成熟を迎えないままに停滞してしまうのでしょうか? それとも、これからも順調に成長を続けてくれるのでしょうか?
公務接待の禁止で
ゴルフ市場も下火に
広大な国土を持つ中国では、内陸部や地方にはまだまだ成長の余地が大いに残されているのでしょうが、上海のような沿岸部の大都市においては、成長期を経てすでに成熟期に入りつつあるのは明らかです。これからバブル崩壊のような強烈な「痛み」が襲ってくるのではないかという危機感も漂っています。もっとも、この国は資本主義国家ではありませんから、日本と同じような道をたどるのかどうか、予測がつかない部分もあります。そのあたりの経済の話は専門家に譲りますが、先行きが不透明なことだけは確かでしょう。
中国では長らく、公然と「公務接待」が行われてきました。政府筋による高額な消費が市場を牽引していたのは明らかで、公費で高級酒やタバコ、贈答品が大量に購入されていました。そういった公費の濫用の中には、ゴルフ用品や会員権の贈答も含まれていたのでしょう。中国ゴルフといえば「成金主義」「金ピカのクラブ」というイメージがいまだに強いかもしれませんが、これは公費が使われていた、という背景があったからです。贈答品である以上、高くなければ価値はなく、高いほど売れた、という時代があったのです。つまり中国ゴルフの発展は、公費と切り離せない関係があり、それが断たれたならばその瞬間に状況が一変する、と考えるべきです。
2012年春、温家宝首相(当時)により、公費の浪費を戒める発言がなされて以来、役人同士の過剰な接待は徐々に影を潜めるようになりました。円卓にはズラリと高級料理が並べられ、そこでは1瓶数万円の高級な茅台(マオタイ)酒が「乾杯」の号令の元に次から次へと飲み干される。そんな光景から一転、政府関係者たちで夜ごと賑わっていたレストランが閑古鳥となり、彼らの御用達だった店舗が次々に姿を消す、という事態がやってきたのです。
この連載で以前にも触れた通り、中国の「データ」というものは、信頼性に欠けるものが少なくありません。都合の悪いものは表に出て来にくい、というのは何もこの国に限ったことではないでしょうが、役人の消費活動が市場に大きなインパクトを与えるような状況で、まともな数字が出てこないのは想像に難くないことでしょう。中国ゴルフのデータはあやふやである、と書いたのも、その大部分を政府筋の人間が支えていたからだ、と考えれば納得がいきます。
つまり、接待の道具として利用されているような状況では、ゴルフ人口の数を調べたくても正確な数字なんて出てくるわけがありません。そうこうしているうちに、公費で高額なゴルフ用品を贈り合うようなことが禁じられると、ゴルフマーケットも下火とならざるを得ない、そんな状況がやってきたのです。