※当連載は、一季出版が発行するゴルフ業界誌『月刊ゴルフマネジメント』へ、当サイト管理人の野田道貴が寄稿したものを転載しています
前稿で触れたiPhone6n転売騒動もいつの間にか沈静化し、中国でも正式に発売が始まりました。1店舗で5,000台売ったという店も出たそうで、その熱狂ぶりにはクラクラしますが、熱しやすく冷めやすい中国人のことですから、やがて何事もなかったかのように落ち着くのでしょう。
それにしても、新しいガジェットに飛びつく中国人の貪欲さには、改めて驚かされた次第です。実は筆者も、9月の帰国の際にiPhone6を入手してきたのですが、その実物を目にした多くの中国人たちから至る所で声をかけられたものです。たとえばレストランなどで何気なくテーブルに置いておくと、特に若い女性のウェイトレスたちはほぼ100%反応しましたし、地下鉄車内で操作をしているだけで「それ、どこで買ったんだ?」と見知らぬ人から聞かれることは珍しくありませんでした。
拡大した免税対象商品
ゴルフ用品界への影響は?
さて、騒々しかった国慶節も終わり、訪日外国人のショッピング動向に対するデータが出揃ってきました。10月1日から解禁された免税対象商品の拡大制度により、この秋の小売店の免税売上げは空前絶後の数値を記録したようです。特に好調だったのはドラッグストアで、空のスーツケースを転がしてやってきた中国人たちでレジには数十分待ちの列ができたなどという話も聞こえてきました。これまでは嗜好品や家電製品などの高級品だけが免税対象だったのが、このたびの法改正で日用品にまで免税対象が広げられたことから、新たなビジネスチャンスが生まれたことは間違いがなさそうです。
もっとも、ゴルフ用品はこれまでも免税対象だったので、今回の法改正が直接影響するということはないはずです。が、ショッピングに対するマインドがより前向きになったという意味では、購買意欲を後押しする効果はありそうです。特に海外旅行での買い物は勢いに左右されるものです。気が大きくなっているところで、高額商品であるゴルフ用品に手が伸びやすくなるという効果は期待できるはずです。
筆者の知る限り、訪日外国人の免税買いを期待しているゴルフ用品店は少なくありません。しかしながら、何か有効な手立てを打って効率的に集客できている事例があるかと言われれば、あまり心当たりがありません。せっかく大きなお財布を持って買い物にやって来ている中国人たちを、もっとうまく捕まえる術はないものでしょうか? いったいどうすれば、彼らの心を掴めるのでしょうか?
外国人旅行者にとって
「時間」こそが最大の価値
元も子もないことを言いますが、集客の成否を左右する要素として、まずは立地が挙げられます。どんなに品揃えが豊富な店舗であっても、時間の限られた旅行客が、ただそのお店を訪れるためだけにわざわざ遠方まで足を運ぶとは考えにくいことです。なぜ銀座があれほどまでに中国人に人気があるかといえば、銀座というブランドはもとより、ここに来ればたいていのジャンルのものが手に入るという利便性があるからに他なりません。百貨店から高級宝飾店、はたまたドラッグストアまでが軒を連ねており、銀座で買えないものはないといっていいでしょう。街全体としての取扱い商品の豊富さが、わずかの時間でより多くの買い物を済ませてしまいたい外国人を引き寄せてやまないのです。
とあるゴルフ用品メーカーから、中国からの訪日客を捕まえるための施策について相談を受けたことがあります。そのメーカーは、郊外にある直営の大型店に案内したいと主張しました。キャパシティに余裕のある大きな店舗で、自社の豊富な製品をじっくりと見てもらいたいという意図はよく理解できます。しかし、その移動のためにかかる片道1時間は、旅行者にとっては致命的なロスなのです。
そのメーカーは、小さいけれど銀座に店舗を構えています。どう考えても、銀座の店に案内すべきなのです。メーカーからすれば、品数豊富な大型店を見てもらいたくても、客の立場からすれば、わざわざ遠方の店舗までバスで連れられて行くなど、いい迷惑だと言わざるを得ません。そんな時間があるならば、手早く近場で買い物を済ませ、他のことに時間を使いたいのです。
逆に言えば、銀座をはじめ都心の繁華街に店舗があるということはそれだけで大きなアドバンテージになるということです。渋谷、新宿、上野など、ターミナル駅周辺の繁華街は、訪日外国人にとってもアクセス至便でわかりやすいショッピングエリアとなります。もし複数店舗があるならば、規模や品揃えよりも、立地を重視して集客を計るべきです。それが何より、時間の限られた旅行者に対して魅力を提示するアドバンテージになるからです。