その④ やっぱりオオサンショウウオとくれば鍋に尽きます

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長年、調理することを「夢見ていた」食材に、ついにめぐりあえた弓田さん。魯山人が「スッポンとフグの合の子のような」と表現したオオサンショウウオを、弓田さんはどのように料理に仕上げたのか。いよいよシリーズ最終回です。

    *    *    *    *

野田 ところで、オオサンショウウオに旬といったものはあるんでしょうか。

弓田 養殖なので特に旬というものはないと思いますが、
   寒くなると脂肪を身体に貯めこむので、
   やっぱり冬場のほうが美味しいんじゃないかと思います。

野田 寒いときにあの鍋をまた食べたいです。

弓田 なんとなく、冬に食べたくなる気もしますが、
   滋養強壮の観点で言うと食欲の落ちる夏場の
   スタミナ食としてもいいはずですよ。

野田 鰻のような、スッポンのような。

弓田 ええ、そんな感じですね。

野田 さばく前のオオサンショウウオの見た目は
   ちょっとグロテスクな気もしましたが、
   料理自体は驚くほど上品な味でした。

弓田 私がイメージしていた通りだったというか。
   だいたいこんな感じだろうな、という線からは
   外れていませんでしたね。

野田 山椒の香りがしなかった以外は。

弓田 ええ、それ以外は。

野田 1品ずつ振り返ってみたいと思います。
   まず最初が、皮の酢の物でしたね。

弓田 フグの皮酢をイメージして作りました。

野田 まさにそんな感じでしたね。
   歯ごたえはコリコリ、風味はさっぱりと。

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弓田 先付けとしてはいい1皿だと思いますよ。

野田 次が茶碗蒸しでした。

弓田 これはちょっと、イマイチでしたね。

野田 普通に美味しかったですけども。

弓田 火の通し方の問題ですね。
   オオサンショウウオの身に火が通り過ぎて
   フレッシュさが消えてしまって。

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野田 もっと身のプリプリ感が残るはずだったんですね。

弓田 今回はちょっとミスでしたが、実際は身のやわらかさが
   味わえるような舌触りに仕上げます。

野田 次はから揚げでした。
   これ、評判良かったですね。
   とても美味しかったです。
   フグのから揚げに匹敵する味じゃないですか?

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弓田 そうですね、普通に美味しいというか。
   ただ、美味しいんですが、オオサンショウウオならではの
   風味があまり感じられない気はします。

野田 確かに言われなければ何のから揚げなのか
   わからないでしょうね。
   でも美味しかったですけどね。

弓田 酒が進むのは確かです。

野田 この辺でだいぶ進みました(笑)
   で、次に焼き物ですね。

弓田 幽庵焼きにしてみました。

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野田 身のしっかりとした歯ごたえがありましたね。

弓田 魚なのか、動物なのか。
   その中間のような歯触りを味わうにはいいですね。

野田 ただ、このへんで結構腹がふくれてくるというか。

弓田 そうなんですよね。
   コースに仕立てたときに、ちょっと重たくなりますから
   ここまで入れる必要があるかは悩みどころです。

野田 単品で食べるならばこれも充分
   美味しいひと皿ではありました。

弓田 まあ今回は試食会ということなので、
   試した料理法一通り皆さんに召し上がっていただいて
   判断しようということなので。

野田 はい。
   おかげでいろいろ楽しめました。
   次に煮物ですね。

弓田 煮付けにしても、想定通りの味になってくれました。

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野田 これ好きでした。

弓田 こうして食べると動物というより魚ですね。

野田 そうですねえ。
   面白いのは、こうやって料理法が変わるたびに
   「これは動物っぽいな」とか「これは魚だな」とか
   いろいろな角度が現れてくるところですね。

弓田 それだけ奥が深い食材といえるかもしれません。

野田 コラーゲンたっぷりな感じで
   女性陣には特に好評でしたね。

弓田 そうですね、女性には煮物はいいかもしれません。

野田 次が変わり種というか。

弓田 そうですね、肝と脂身の部分を炒めてみました。

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野田 これ、酒のつまみには最高でしたよ!

弓田 ちょっと濃いめの味付けにしてみましたが、
   これはなかなかの珍味でした。

野田 脂身っていうのは、あのしっぽというかなんというか。

弓田 ええ、そうです。あの部分です。
   中華ではおそらく食べないでしょうね。

野田 和食だからこその料理といえそうです。
   ぷにぷにした歯触りと、肝のねっとりとした
   感じのコントラストがなんとも言えず。

弓田 肝は想像通り、なかなかいい味をしていました。
   あん肝とはまた違う、もう少し動物のレバーっぽくて。

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野田 まさしく珍味、っていう感じでしたね。
   これだけでビールが飲めます。

弓田 でもまあ、ここまではすべてオマケというか、飾りというか。
   やっぱり本命は鍋ですよ。

野田 そうですねえ、、、
   あの鍋が出てきたときには少し静かになりました。

弓田 ええ。
   人を黙らせる力があります。

野田 少し解説していただけませんか?

弓田 出汁を張った鍋で、まずはオオサンショウウオの身だけを
   食べていただきました。
   スッポン鍋もいろいろな食べ方がありますが、
   野菜を入れずにスッポンだけを炊きあげる方法があって、
   今回はそれに準じてみました。

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野田 純粋に、オオサンショウウオの身を味わう食べ方ですね。

弓田 ええ。まさに魯山人の書いているように、フグのようであり、
   スッポンのようでもあり、なんとも他に例えようのない味が
   いちばん楽しめるのはやはりこの鍋に尽きます。

野田 さんざん食べて飲んで、結構満腹状態だったにも関わらず
   みんなよく食べてましたよね。

弓田 気に入ってもらえたようでよかったです。

野田 もちろん身も美味しかったんですが、
   ネギや豆腐野菜を入れた後もよかったですねぇ。

弓田 オオサンショウウオの旨みが出た後ですから、
   あの出汁を吸った野菜は美味いはずです。

野田 しかも、その鍋のスープで作る〆のうどんがこれまた絶品でした。

弓田 雑炊でもよかったんですが、うちはうどん屋ですから
   今回はうどんにしてみました。

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野田 このうどんは本当に美味かったですねえ……。
   〆なのにお酒が止まりませんでした。

弓田 おそらく鍋のスープにはコラーゲンがたっぷりと溶け出しているので、
   これなんかは女性が喜ぶんじゃないでしょうか。

野田 同席していた女将さんもしきりに言ってましたね、
   コラーゲン!って(笑)

弓田 これを食べたら翌日は肌つやが違うはずですよ。

野田 ええ、確かに肌がぷるぷるしてるんですよ。
   まあおっさんがぷるぷるしても仕方がないんですが(笑)

弓田 とにかく鍋がメインであることは揺るぎないですね。
   オオサンショウウオといえば、鍋。

野田 そして〆は田野の讃岐うどん。

弓田 そうですね。

野田 さて、これをどうやってお客さんに提供される予定ですか?
   素材の仕入れの都合上、完全予約制ということになると思いますが。

弓田 予約を受け付けてから素材を仕入れて、
   それからをまず下処理しなくてはいけないので、
   やはり最低でも2日前の予約になりますかね。
   時間をかけて下茹でしないと、肉が充分に柔らかくなりませんから。

野田 それはやはり魯山人が書いていたように。

弓田 そうですね。下処理に手間と時間がかかりますが
   これを怠ると美味しくならないので。

野田 やはりコースで、ということになりますか?

弓田 丸一匹をすべてを味わっていただく
   コース料理にしようと思っています。
   そうなると、最低でも4人一組、できれば5,6人一組で
   召し上がっていただくということになりますね。

野田 珍しい食材ですから、お客さんとの会食でも使えそうですね。

弓田 そうですね。日本から来た方の接待にも使えると思います。
   日本では決して食べることができない、
   オオサンショウウオの料理が上海のうどん屋にありますとね。
   それだけでも話のネタになるんじゃないでしょうか。

野田 オオサンショウウオを食べに来るツアーとか。

弓田 まあ、そこまでではないでしょうけども(笑)

野田 でもこの鍋は皆さんに食べていただきたいですねえ。

弓田 鍋メインで、他の料理については選んでいただける
   ような形がいいかもしれません。
   皮酢とから揚げがあれば、あとはもう鍋をがっつり食べたい、とか。
   欲張りに煮物も肝も味わいたいとか。

野田 ああ、胃袋に合わせて調整できるとうれしいですね。

弓田 あとはご予算の問題もありますし。

野田 ああ、やっぱり値は張りますよね。

弓田 そうですねえ、品数によりますが、今回のような
   フルコースにしてしまうと1,000元は越えてしまいます。
   600元から800元くらいで楽しんでいただけるところで
   メニューにできればとは思っているんですが。

野田 それくらいだと、ちょっと背伸びすれば、というところですね。

弓田 そうですね、商売を考えるともっといただきたいところ
   なんですが、これは商売抜きにしても皆さんに一度は
   食べてみていただきたいという気持ちもあるので。

野田 弓田さんの思い入れが詰まった食材ですからね。

弓田 そうですね、ついにメニューに加えることができた
   オオサンショウウオですから、今回のこの話を読んで
   興味を持っていただけた方々にはぜひ味わってほしいです。

野田 一度食べればきっとまた食べたくなるのは間違いないと思います。

弓田 他のお店では召し上がれないですから、
   オオサンショウウオといえば、田野ということで。

野田 讃岐うどんとオオサンショウウオの店、田野ということで。

弓田 ですね(笑)

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序章を含め、計5回にわたってお伝えしてきた「管理人日記特別編・魯山人が愛した幻の珍味を上海で再現してみた話」はこれにておしまいです。おそらくほとんどの方が食べたことがないであろう、オオサンショウウオ料理の魅力について、田野の弓田さんの思い入れを交えてご紹介しました。

日本では決して食べることのできない「幻の珍味」、あの北大路魯山人が絶賛した「珍味中の珍味」を、ぜひ一度、上海で味わってみてはいかがでしょうか。

(取材・文/大室衛)

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オオサンショウウオ料理のご予約、お問合せは『田野本店』へ。

田野本店
上海市長寧区仙霞路299号
遠東国際広場B棟1F02-05(x古北路)
021-6270-0253
11:30〜16:00/17:30-24:00(Lo.23:00、無休)

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