Vol.3 中国のゴルフコースは無許可営業!?

※当連載は、一季出版が発行するゴルフ業界誌『月刊ゴルフマネジメント』へ、当サイト管理人の野田道貴が寄稿したものを転載しています

中国でゴルフビジネスに身を投じている以上、この国のゴルフが発展してくれることは何よりの願いです。市場が育ってくれないことには、ビジネスどころの話ではないからです。もちろん、ここには成長余地があると信じているからこそ、ややこしい問題を抱えつつも「アウェイ」の地に根を張り、じっと可能性を探っているわけですが、時々猛烈な無力感に襲われることもあることを正直に告白しておきます。この国のゴルフは、永遠に花開かないのではないか? と思うに至る要素はいくらでも挙げられるからです。その一方で、いつの日かブレークスルーが起こるタイミングを信じて待ちわびているというところでしょうか。

では、その時は、果たしていつやって来るのか(あるいは来ないのか)。今回はそんなお話をしてみたいと思います。

ゴルフ場ではない「ゴルフ場」
無許可コースがなぜ成立?

中国のゴルフ場には、正式な許認可を得ていないコースが多いということには前稿でふれました。厳密には「ゴルフ場」と名乗ることができないはずなのに、紛れもなく「ゴルフができる」、しかしゴルフ場ではない場所が、幾百も存在する。まず、この歪みを認識することが、中国ゴルフを読み解く最初の鍵になります。

こっそりと地下で営業するモグリの酒場ならばともかく、ゴルフ場を無許可で作っておいて、誰にもバレないということがありうるでしょうか。筆者はこの原稿を、上海から成田へ向かう機上で書いていますが、その上海浦東空港に隣接する土地に、2010年秋にオープンした「上海東庄海岸ゴルフクラブ」というコースがあります。中国政府としては、2005年以降はゴルフ場の建設許可を一切下ろしていませんから、もちろん認可を受けていないコースであることは想像に難くありません(許可がない、と断言できないところがこの国の難しいところでもあるのですが)。事実、このコースの存在を知らない人は、上海のゴルファーの中にも少なくありません。高級メンバーシップコースとして、かなりクローズドな運営がされており、メンバー以外の一般ゴルファーにとっては縁のないコースだからです。筆者も、まだ足を運んだことがありません。

とはいえ、筆者が上海に戻るとき、着陸時に機内の窓から目を地上に向ければ、まごうことなきゴルフ場がその視界には入ってくるでしょう。どんなにその存在を隠そうとも、空から見下ろせば一目瞭然、ゴルフコースはどうしたって人の目から隠せるようなものではないからです。

中央政府からの許可を受けていなければ、そんなビジネスは不可能だというのは日本人的な考え方です。この国では、どんなに厳しく禁じられようともそこにはかならず脇道があります。「上に政策あれば下に対策あり」などといわれますが、その「対策」を講じられる者こそが成功者になれる可能性を秘めているのであり、逆説的には「ダメだ」といわれたものに対して「はいそうですか」、黙ってとうなだれているようでは、中国のビジネス界で生き延びていくのは難しいのかもしれません。

2,000万円の会員権に
相応の価値はあるのか?

政府から正式な許可を得ていないゴルフ場がある。このこと自体、日本人的感覚では信じられないかもしれません。でも、それが中国では平然と存在しています。

そして、たとえばそういった「無許可」のコースの会員権が、2,000万円するといわれたらどうでしょうか? 事実、高騰を続ける中国ゴルフ場の会員権は、100万元(約1,700万円)クラスの価格がついているものがいまや珍しくありません。もっとも、日本のように流通市場が整っているわけではないので、それはあくまで「参考価格」として考えた方がいいのかもしれませんが、上海近郊には100万元をくだらないコースが多々存在しているのです。そして繰り返しますが、それらは「ゴルフ場」としての許可を持ち合わせていない場所だったりします。

この国ではすべての土地は国家の持ち物です。ゴルフ場とて例外ではなく、借地の上に作られています。つまり、国家が保有する土地が賃貸され、そこに営業許可が与えられて初めて成り立つものです。ところが、その許可がないとなると、「ゴルフ会員権」とはいったい何なのでしょう? それはつまり「ゴルフ会員権のようなもの」が、高額で取引されているということでしかありません。将来にわたり何らかの権利を保証されるものではないと考えるのが妥当です。

さて、ここに新規売出し価格100万元の会員権があります。当然のことですが、新規での売出しは、購入者が規定数に達した時点で打ち切られるはずです。以後、そのコースの価値は市場に委ねられ、売買市場で取引されることになるでしょう。そのときの市場価格によって、はじめてそのコースの正統な価値が計られることになります。

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2010年開業の「覧海国際」は、リンクス風のコースに豪奢なクラブハウスを備える。会員権価格は2,000万円クラスだ。※写真と本文は関係ありません

ゴルフ場は誰のものか?
メンバーより優位なオーナー

中国にパブリックコースは存在しないので、すべてのゴルフ場はメンバーシップコースです。それらは当然、メンバーのためのものであり、その権利が最優先されるはずだと考えるのが当然です。

ところが、中国のゴルフ場では、オーナーが最高権力者であり、その利益のために運営されているフシがあります。というか、そう考えないことには理解ができないことが多々あります。

たとえば、新規の売出しにしても、定員達成後もいつまでもその募集が止まらない状況があります。こうなると、高額で会員権を購入したメンバーはたまったものではありません。プレー枠はどんどん取りにくくなり、メンテナンスも行き届かなくなります。もちろん、コース側は募集を継続していることを明らかにはしないでしょう。でも、実際に新たなメンバーが増え続けている事実をどう説明できるというのでしょうか(しかも価格が下がっているとしたら)?

あるいは、本来メンバーが優先的にプレー権を持つのはもちろん、最も安い料金でプレーできるはずなのに、その権利が担保されていないとしたらどうでしょうか。実際、ある銀行のVIP会員の方が、コースのメンバーのプレー費よりも優遇されるということがしばしば起こっています。それにもかかわらず、メンバーの年会費を毎年のように引き上げるコースも少なくありません。こうなると、もはやメンバーであることの価値とは何なのでしょうか?

通常であれば、こうした異常事態は許されるものではありません。ところが、メンバーよりもオーナーの立場の方が強いとなるとどうでしょうか? 権利とはいえない「会員権」でしかない弊害は、こういったところに如実に表れています。現時点で、ゴルフ場経営は圧倒的にオーナー側に有利に働いており、メンバーシップの正当性はこの国には存在していないといわざるを得ないでしょう。そんな「権利もどき」が2,000万円もする世界。どこかの国でかつて見た、過去の狂躁を思い出して不安になってしまうのは不自然でしょうか?

クラブユーフォ!管理人・野田道貴
一季出版: 『月刊ゴルフマネジメント』(毎月15日発売)ほか、ゴルフ業界誌や専門書を出版。 http://www.ikki-web.com ※当連載は、一季出版が発行するゴルフ業界誌『月刊ゴルフマネジメント』への寄稿を転載したものです