「一般のゴルファーはゴルフを多目的に愉しみすぎる」と中部はいう。目標に掲げていたスコアを達成できなくなったとき、いろいろなショットを試してみたりすることで別の愉しみを見いだそうとしがちだ。しっかりした目標を持ってプレーする。それが崩れたときに“今日はどうでもいいや”ではなく、それでもなお最初の目標を忘れずに一生懸命プレーできるか」。
たとえ達成できないと知りつつも、目的に向けての持続力が維持できれば、それはいずれ達成に向けての力となる。「負けグセのついた者はやる前から負ける理由を考えている。<貫く棒>を持っている者は、負けても勝っても反省材料を吟味するものだ」
「無難」にやりすごす方法
中国への赴任が決まった時に、自分自身のゴールを決めていた人はどれほどいるでしょうか。その赴任期間のゴールが、自分の人生も含めたキャリアプランにどうつながるか、考えたことがあるでしょうか?
「そんな先のことはわからない。とりあえず目の前の仕事を懸命にこなすだけだ。」このタフな中国で仕事をしていると、目先のことに精一杯になってしまうかもしれません。しかし、人生全体までを視野に入れれば、ゴールを見つめることが結果的にいまを「無難に」やり過ごすための近道なのではないでしょうか。中国でのビジネスは困難の連続だといえます。ここで自分にとっての軟着陸点を探す癖がついてしまったらどうでしょうか?そういう「無難さ」は「逃げ」へとつながり、「負けグセ」がついてしまいます。駐在が終わっても何も残らないどころか、マイナス評価にまでなりかねません。本当の「無難」とは、未来へつながる道から外れないこと、つまりゴールを見失わないことです。ゴールを持つことは、いまを生きるうえでも大切なことなのです。
過去を知ることで、未来は変えられる
もしゴールが見えてないのなら、今からでも見つけましょう。そのためにはまず、過去を振り返り、人生の棚卸しを行うことが必要です。それが3年後、5年後、10年後の未来につながります。過去は変えられなくても、未来は変えられる。これまで、自分の意思で決めてきたことの理由や動機を思い出してみましょう。すると、当時の価値観が多少なりとも見えてくるはずです。次に、現在を見つめてみます。自分はなぜ海外へ出たのか?中国での駐在をどう考えるか?様々な自問自答をし、よりクリアに今の自分をつかみます。そうして得た過去と現在の価値観への理解を踏まえて、未来の目標を考えてみましょう。そこから見えてくるものが、きっとあなたのゴールなのです。とくにはっきりとした動機はないと思っていても、必ずその決断を後押しした何かがあるはずです。そこに自身を「貫く棒」のような軸が見えてくるのではないでしょうか。
「貫く棒」という命綱
とはいえ、その「棒」を見つけるのは簡単なことではありません。たとえばこれまでのビジネス人生をパワーポイントにまとめてみてくださいと言うと、たいていの人はできないものです。しかしそれさえ見えてくれば、逆に未来の目標が定まってきます。自身の仕事観を整理することで、新しい人生観が見えてくることだってあるはずです。過去と現在の振り返りの過程で見えてきたゴールは、つまり「心情」ともいえます。「これだけは譲れないもの」をつかみとれば、それは揺るぎない行動の指針になります。経営者や管理者とは、常に孤独なもの。ましてや異国での事業となれば、誰にも相談できないこともある。そんなとき、言い訳ばかりを探す状態になりやすいものですが、それでは新しい展開は見えてきません。そうではなく、ぶれない「貫く棒」にしたがって行動することを心がけてみる。それは「中国だから」と流されるものであってはいけません。たとえ外国であっても揺るがないもの。それを持つことによって、はじめてローカルのスタッフたちから尊重され、信頼を得ることができるのです。 これまでの「当たり前」が通じない国にいるからこそ、自身を貫くぶれない棒を。そのために、過去を振り返り、現在を見つめる作業に時間を使ってみましょう。
参考文献:中部銀次郎 ゴルフの心(杉山通敬著・日経ビジネス人文庫)
中部銀次郎とは:前人未踏・日本アマ6回優勝という金字塔を打ち立て「プロより強い」と評されながらも生涯アマチュアを貫き通した伝説のゴルファー。その徹底したアマチュアイズムとストイックな姿勢には、多くの教訓が今も残る。2001年没。