第7回『トクソウ』

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お父さんも楽しめる硬派ドラマの宝庫、WOWOWドラマを見逃すな!

さて今週のドラマニア、ちょうど放送が終わったばかりの採れたてドラマ『トクソウ』(全5回)をご紹介します。有料BSチャンネルでの放送なので観た人は少ないと思われますが、いろいろゴニョゴニョすれば今からでも見られそうです。

 

スポンサーなしドラマの魅力

WOWOWの月額料金は2300円。昔はちょっと先行く人がNHK-BSを契約し、さらにリッチな人がそこにWOWOWを上乗せするなんて時代もありました。でも今や、ブロードバンド回線込みの多チャンネルケーブルテレビや無料のBSデジタルチャンネルが当然の時代。たった1チャンネルに誰がそんな高額の視聴料を払うのだろうと他人ごとながら心配でしたが、そんなWOWOWが活路を見出したのが「独自制作ドラマ」です。

まずは2003年に単発ドラマ枠「ドラマW」がスタートしたのですが、これがテレビ放送における最も権威ある賞である「ギャラクシー賞」をはじめ数々の有名な賞を受賞する大当たり。民放では見られない丁寧な絵作りが光っています。

そして2008年、満を持して登場したのが「連続ドラマW」です。代表作は相場英雄原作の『血の轍』『震える牛』、『半沢直樹』の池井戸潤原作『空飛ぶタイヤ』、小泉今日子主演で話題となった『贖罪』など多数。民放ドラマでは手を出せないような際どい題材を扱い、視聴率やスポンサーに左右されない強みを遺憾なく発揮しています。映画クオリティーのど派手な演出で話題のTBS『MOZU』もWOWOWとの連携ドラマですね。

それにしても、何故ドラマW枠の作品は映像にお金が掛けられるのでしょうか?そこには賭けにも等しいギリギリの選択があったようですが、ドラマの予算分を視聴料に還元してもっと安く見られるようにしてくれれば、なんて思わないでもないです。2300円っていったら、お父さんの平均お昼ご飯代4日分より高いわけですから。

 

「地検特捜部は巨悪」と言っていい時代

今回ご紹介する『トクソウ』のあらすじを大まかに紹介すると、与党政治家が絡む大規模な贈収賄事件に着手した特捜検察の動きをメインに、そこに配属された生真面目な一人の検事(吉岡秀隆)と、その元恋人である司法記者が捜査の闇に巻き込まれていくというもの。原作は元検事で現在弁護士の作家・由良秀之の小説『司法記者』。地検特捜部が犯罪をでっちあげていくという内容なので、フィクションとはいえ元検事がそういう話を書くというのはものすごい真実味があります。というか真実なんでしょう。

と我々が当たり前のように地検特捜部を嘘つき呼ばわりする日がくるなんて、私が子供の頃には考えられないことでした。さすがにロッキード事件のことはリアルには知りませんが、東京地検特捜部といえば、大物政治家や大企業といった特権階級にある悪者たちの牙城に、畳んだ段ボール箱を持って乗り込んでいって、それをパンパンにして出てきた後はどんな大物も一巻の終わりといった、いわば「正義の味方」であったわけです。戦後最大の贈収賄事件と言われた「リクルート事件」の時は、マスコミが疑惑をすっぱ抜いて大騒ぎとなったと思ったら地検が例のダンボールでもって政財界の大物を大量に成敗。ずれた女もののヅラをかぶってマスコミにもみくちゃにされる江副リクルート会長の様子とともに「東京地検パネエ」な印象を世間に刻み込んだのです。

それが、2000年に入ってからでしょうか、ちらほら特捜=でっちあげ捜査といった内容の本が出始め、2005年に『国家の罠』が出版された時にそれが決定的となりました。「ムネオハウス」の鈴木宗男の相方で、田中真紀子から「外務省のラスプーチン」とアダ名をつけられた外交官の佐藤優が検察の取り調べについて克明に記したもので、そこには検事が「これは国策捜査だから、無実であってもあなたが無罪になることはない」と断言するシーンが実名入りで描かれており、世に大変な衝撃を与えたのです。以降、検事側からでっち上げを暴露する本が出たり、2009年の「郵政不正事件」をはじめ本当に検察が証拠捏造で告訴されたり、パネエってか君たちが極悪じゃないかという状態になったところにこのドラマなのです。世の中的に検察=ダメ組織と大っぴらに言える空気はあるものの、殺人まで出てきますからね。ここまでのものは、まだ地上波では出せないでしょう。

※余談ですが、前述の『国家の罠』は、鈴木宗男、森喜朗、アントニオ猪木といった当時「バカっぽい政治家」の代表格であった3名の世の評価を180度変えてしまった驚愕の書であります。『トクソウ』より面白い、といったら元も子もないですが、実際そうなので興味ある方は是非ともご一読を。

 

「吉岡秀隆病」患者からみた『トクソウ』

ところで主役を務めた吉岡秀隆ですが、一部の年齢層の女性にひっそりと知られる「吉岡秀隆病」をご存知でしょうか?これは『北の国から』でリアルタイムに吉岡氏の成長を見てきた女性だけがかかる病で、社会の底辺で葛藤する純君に吉岡氏を完全に重ねあわせ、シリーズ終了直後に内田有紀と実際に結婚したことを我がことのように喜び、たった数年で内田有紀に捨てられたことに激しく同情するなど、まるで肉親のように氏を見守ってしまうのが主な症状です。

かくいう私も重篤な吉岡秀隆病患者であり、吉岡氏が尾崎豊の遺品だというネックレスをしているのを見ると「ダサいからやめときなさい」と手紙を出したくなり、ややもすると膨らみすぎる髪を見かねて整髪料を送りたくなったり、『ALWAYS三丁目の夕日』シリーズ以降大きなヒット作がないことが心配で脚本選びを手伝いたくなったりする衝動と日々戦っています。

そんなワタクシから見た『トクソウ』の吉岡秀隆は、なかなかよいです。70点ぐらいあげてもいい。度を過ぎた童顔と滑舌の悪さのせいで硬派なドラマだと浮いてしまうのですが、新米検事と見まごうばかりの腰の弱いルックスでもちゃんとやっていける役柄でした。髪型も近年稀に見る常識的な膨らみで、菅原洋一だったDr.コトーヘアを0とすると、90点ぐらいは上げてもいい感じでした。最近では『猫弁』シリーズに続くいい仕事です。

しかし思い切り髪を爆発させてもよく、童顔がダサメガネでうまく隠れる茶川竜之介ぐらいの当たり役が今後出てくるかどうか。心配で居ても立ってもいられません。この『トクソウ』がシリーズ化されればいいのですが、毎回でっち上げ捜査をする地検の話というのも飽きるし、結局は組織が嫌になった吉岡氏が地検をやめて富良野に移り住み、小屋を立てて自給自足を始め、妻に逃げられ息子が友達と火遊びして小屋を全焼させるなんて話になりかねないので、だったらいっそ『北の国から』のリメイクに期待することにします。もちろん二代目五郎は吉岡秀隆で。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスのブランディングや広告にこまごまと参加。執筆の得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、動物、昼寝などなど。