第8回『BORDER VS MOZU』

Screen Shot 2014-06-17 at 0.41.11横文字刑事もの対決!何が明暗を分けたのか?

先ごろついに最終回を迎えたテレビ朝日『BORDER』(全9回)とTBS『MOZU』(第1シーズン・全10回)。同じ刑事モノとあって、どちらが木曜9時枠を押さえるか放送前から話題になっていましたが、結果はご存知のとおり。スタート時の勝敗を覆してBORDERの圧勝となりました。今週は、採れたてドラマレビュー第二弾。2014年春クールを賑わせた二つの刑事ドラマについて押し斬りしてみたいと思います。

 

高カロリー戦法『MOZU』VS エコ仕様『BORDER』
MOZUは豪華出演陣と派手な絵作りで肉弾戦を仕掛けましたが、対するBORDERは霊能者・小栗旬が飄々と1人で迎え撃ち。ノーガード戦法でもって最小限の労力で相手をかわします。BORDERは本当に省エネドラマでした。小栗旬が突っ立ってるか、歩いてるか、幽霊と突っ立って静かに会話してるか、手先(情報屋の皆さんなど)を静かに働かせているか。たまーに走ったり殴ったりもありましたが、ほんの僅かなシーンにちょっとだけスローモーションを使って目立たせたりして、爆風と血しぶきが飛び散りまくりのMOZUとは完全に対極でした。結局淡々と一話完結を積み上げていったBORDERが支持を集め、高カロリーで押し通すのかと思いきや途中でまさかのトーンダウンを見せたMOZUは自滅の坂を転げ落ちていきました。

 

ほんとに『BORDER』ってそんなに面白かった?
さて、ここで改めて考えてみたいと思います。BORDERってそんなに面白いドラマだったんでしょうか?
何を面白いというかによって評価は全然変わってくると思いますが、以下わたくしの個人的評価を。

目新しさはあったか? YES
雰囲気はあったか?  YES
役者はよかったか?ほぼYES
演出は緻密だったか? YES
脚本は緻密だったか? NO

このドラマの脚本は、刑事ドラマには過去に類を見ないレベルで「説明的」でした。主人公の石川刑事(小栗旬)が「脳に打ち込まれた銃弾のせいで、死者の声が聞こえるようになった」というのはこのドラマの最も大きな特徴ですが、それは物語にオカルトテイストを与えるのではなく「被害者が犯人を最初から開示する」という方向で機能します。では刑事コロンボや古畑任三郎形式なのかというとこれもまた違って、天才美人法医学者が遺体に残った微細な証拠をかき集めてくれるし、残りは裏社会の情報屋や便利屋、お抱えハッカーという方々を総動員して事件を解決。犯人も「おまえだろ!」と言われるとすんなり自供して捜査解決に協力です。名推理もハードなアクションも出てきません。あるのは小栗旬から漂い続けるダウナーな雰囲気と、ヒューマニズムのようなものだけ。一話完結ものの定石である、後半になるにつれ完結からはみ出して最終回に雪崩れ込むという形すらとらず、なので登場人物のキャラ要素以外は各話の統一感もないのです。

BORDERを見ながら、私は「このドラマは一体何を描こうとしているのだろう?」と常に首をかしげてきました。そしてやってきた衝撃の最終回。あまりの終わりに固まりましたが、次の瞬間やっと理解しました。このドラマは放送の段階でラストまでプロットがほぼ決まっていたのだそうです。そして、タイトルの『BORDER』は、生死の「境」であり善悪の「境」。そう捉えると、1話で生死の境を超えてこの世に戻ってきた石川は、ラストでもうひとつのボーダーを超える必要があったわけです。

結局、脚本を書いた作家の金城一紀は、このラストが書きたかっただけなんじゃないでしょうか。思い返せば美人法医学者の比嘉ちゃんはずっと石川に「このままじゃあなた闇に潰されるわ」的なことを言っていました。そして第1話も最終話も子供が被害者でしたが、最終話の石川はやたらテンパってました。彼は「闇に飲まれてかかっていた」と伏線は張られていた…はずでしたが、正直効いてたとは思えません。ラストに犯人が石川の肩に手を置いて言う一言に、金城氏の「してやったり感」がビシバシ伝わってきて気恥ずかしさすら感じました。

他にもダメ要素は多々あるのですが、それでもこのドラマが人気を集めたのは、『わかりやすかったから』からだと私は思います。あまりにもシンプルで面倒見のよいストーリー展開と、どの回から見始めても完璧に理解できる仕組みが、簡単だけどかっこよさげなドラマを求めるお茶の間のニーズに応えたのです。特に第1話目の雰囲気は最高でした。5話のコメディータッチもよかった。あとは…?

 

ほんとに『MOZU』ってそんなにダメだった?
次に敗者の『MOZU』についての分析です。結論からいうと、話は悪くないはず、なんですがまず、先の『BORDER』と同じく項目をチェックしたいと思います。

目新しさはあったか? YES
雰囲気はあったか?  YES
役者はよかったか?ほぼYES
演出は緻密だったか? うーん
脚本は緻密だったか? うーん
物語の構成は適当だったか? NO

MOZUの最大の欠点は、謎解きの展開の仕方にあります。第1話、BORDERに視聴率で4ポイント差をつけた回は、なかなか見事な展開でした。大掛かりな爆発シーンと染谷将太のアナウンス入りカメラ映像から始まり、クールなアクションシーンにモウモウとくゆるタバコのインパクト。人生半分投げているような主役の刑事・倉木(西島秀俊)、爆発で死んだ元公安の妻(石田ゆり子)、謎の死を遂げた倉木の娘、記憶喪失の殺人鬼(池松壮亮)等々。脇を固めるのが真木よう子と香川照之というのもゾクゾクするほど大物感のある旬な顔です。1話、2話は海外ドラマを見ているようで、さすが本格派ドラマ職人のWOWOWとTBSが組んだだけはあるなと胸を踊らせました。が、そこからがまずかった。

第3話以降、池松壮亮演じる殺人鬼・新谷和彦のアクションが減るなり、物語がいきなり止まってしまいました。実際視聴率もそのあたりを境にBORDERに逆転されています。一応倉木が血まみれで美希(真木よう子)の家を訪れ、怪我に乗じて抱きついたり胸を豪快にはだけて引きしまった裸体を晒したりとのサービスもありましたが、倉木と美希のエロ展開もそこまで。6話になってやっと新谷和彦の殺人鬼部分が開花し敵を皆殺しというカタルシスはありましたが、すぐに捕まってレクター博士状態です。あとは延々暗い画面のなかでおっさん達が複雑な謎解きを静かに続ける「まさかの説明的展開」で、話の吸引力は落ちる一方です。

BORDERはエコ仕様の省エネドラマで、霊が出てきても生前のすっきりした姿で血しぶきも全然なく、ギャラの高そうな登場人物も小栗のみ。こけても大したダメージにはならなそうですが、MOZUの出血量は地上波ギリギリレベルです。そこに気迫を感じましたし、それこそこのドラマの魅力でもありました。しかしそれがないとMOZUのウリである派手なアクションとお金のかかった感、不穏な雰囲気が消えてしまう。まるで予算をケチっているように見えるし、細眉ばかりが目立つ香川照之の無駄遣い感たらないわけです。肝心の仕掛けの部分=謎が悪いわけではないので、もったいないことこの上ない。稀代の高カロリードラマは、稀代の「浪費ドラマ」になってしまいました。最終回は頑張ってくれましたが、そこに至るまでに脱落した視聴者は数知れず。もったいない!

この手の壮大な謎解きアクションドラマには二つの進路があると思うんです。ひとつは『ボーンシリーズ』や『24』のような、難しい話はさておきひたすら派手なアクションをぶちこんでいくやり方。もうひとつは『マトリックスシリーズ』のように、ごたくを延々と語る場面を入れつつ、極めて印象的なアクションをはさんでいくやり方。ごたくの部分で世界観が出るのであればマトリックスシリーズもいけなくはないでしょうが、謎が現実的で複雑であればあるほどボーン・シリーズじゃなくちゃ持ちません。今じゃ話に「サルドニア共和国の大統領」まで出てきちゃいましたから、誰だこれ?と思わせる前にジャック・バウワーばりに倉木を戦わせなきゃならなかった。アクションシーンでお茶の間が「わーっ!」とならない限り、謎解きめんどくせーの罠から逃れられないのです。

 

『MOZU』の失敗が潰す、二つの未来
残念ながら今回、低コストでもいけるエコ仕様の分かりやすいドラマBORDERが勝ってしまったので、今後MOZUのような、制作費をどーんと使った高カロリーアクションドラマは影を潜めるかもしれません。成功すれば日本のドラマはひとつ成長できたかもしれませんが、大作ドラマが当たらないとなれば、恵まれた環境からもひとつ遠ざったということです。

そしてもうひとつ、WOWOW独自制作ドラマを潰す可能性もあります。そもそもドラマWは、WOWOWが黒字を10%も削減して制作費を捻出している唯一の「生き残り策」で、ここがコケれば死活問題なわけです。MOZUには億単位の制作費がかかってるなんて噂もありますが、TBSでの放送から得られる新規加入者で元がとれなければ…。
見込み加入者数に見合う視聴率が、しっかりとれていることを願います。

できることと言ったらあとは、第2シーズンのTBSでの番宣です。西島、脱ぐ!真木よう子、あえぐ!!香川は刑事やめて常務!!!そして池松君は血のバケツリレー、あと3回ぐらい爆破シーン入れて、ついでに石田ゆり子と生瀬勝久は失楽園で、ダルマは小日向と見せかけて西島!?ぐらいの予告編を作ってバンバン流してほしいです。日本のドラマの未来のために。そして社会から取り残されつつ今回BORDERとMOZUを都合3回ずつ観た私のために。

松下祥子@猫手舎
ほぼWEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、Yahoo!でのコミックレビューコンテンツのほか、WEBサービスや広告の企画、執筆でこまごまと参加。得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、動物、昼寝などなど。