名言ではなく迷言の重厚感
前回ご紹介した『昨夜のカレー、明日のパン』の木皿泉が名言積み上げ方式ならば、クドカンドラマは名言はたまにしか出てこない。そのかわり、凝った迷言を積み上げたうえで、かかと落としのように名言を繰り出すんです。だから脳天に突き刺さる。思いもしない時と形で泣かされる。クドカンドラマ特有の崩折れるような爽快感、それがDVD販売実績に繋がる巧妙な罠なんです。
今回も迷言キレまくりでしたよ!ダントツでよかったのは、高校時代の荒れっぷりからついた蜂矢りさのアダ名「りさ・ブラックタイガー」について、りさが平助に説明するときの台詞です。
”三島” ”ブラックタイガー” で検索すると “えび” より前に出てきます
満島ひかりの魔力を遺憾なく利用しつくした台詞です。回想のなかのブラックタイガーぶりも合わせて、爆笑しつつもムラムラとさせられてしまいました。
他にも出色のものを触りだけご紹介しますと
女子校に勤務する男性教師は三割から五割増しに見えるんです。荒俣宏がニコラス・ケイジに見えるんです
あの頃はLINEもツイッターもなかったけど、スコラとデラべっぴんがあったもんね
スコラとデラべっぴん……80年代の童貞君を支えた二大雑誌ですよ!『ALWAYS三丁目の夕日』にも匹敵する、ハートウォーミングな名台詞です。
そんななか、ほんとにたまに、はっとする台詞が挟まれるんですね。たとえば
女は興味ない男からさえ嫌われたくない
ほんと、男子のことなんて小馬鹿にしてるんですよ女子は。でも、そんな男子からですら嫌われたくない。女というのはかくも貪欲な生き物なのですよ。浅ましい!
私が最も感動した台詞は、第7話で一平に別れを告げるどんまい先生の言葉でした。この回の数字は全話通して最低の5.7%。日曜劇場の歴代最低視聴率という「偉業」も達成してしまいました。しかし、りさが平助の阿修羅に一目惚れする重要な回でもあり、クオリティーの高さでは群を抜いていました。
どんまい先生が涙ながらに、一平に別れを告げる時に言うんです。
ずっと眠っていた獣を、獣の女子力を引き出してくれて、恋する勇気を与えてくれて、ありがとう
ずっと眠っていた獣➝獣の女子力➝恋する勇気。なんて不意を打たれる、鼻水吹くほど笑わせられる、それでいて真を突いた、泣きながら言葉を絞り出すどんまい先生に貰い泣きさせられる台詞があるでしょうか!ほんとにね、鳥肌が立ちました。いつの間にか演技派になっていた坂井真紀の底力です。完全にどんまい先生という役を消化してないと、絶対この台詞で視聴者の涙は誘えない。そう思うとさらに感動して、もういくら泣いてもいいぞ!とね、決壊寸前の涙腺にゴーを出してしまいましたよ……。
他にもね、トランスジェンダーを扱った第8回、息子の中身が女の子だと知って必死に理解しようとする父(津田寛治)が、『ロッキー・ホラー・ショー』と『稲川淳二の怪談』のDVDになぞらえて息子の状態を説明された時に言った台詞がね、ウケルーと腹を抱えた直後に涙がダーっと、その後鳥肌という展開でもう絶句。これは説明するより是非見て欲しい。
全体を通して見ると、坂井真紀と満島ひかり、この二人の「処女」は本当に素晴らしかったです。昔の美少女の面影を全てかなぐり捨てて、分け目が薄くなってカラッカラの髪を惜しげもなく晒した坂井真紀、斬新な衣装と80年代風ショートカット、首からジャラジャラと下げるホイッスルやロザリオや変なロボットがたまらなく可愛かった満島ひかり。肉食坊主のえなりかずき含め、過去振り返ってもずば抜けて魅力的なキャラが満載なわけです。そして、古臭い学園ドラマと思わせといて斬新すぎる迷(名)台詞を散りばめた話運びは、過去振り返ってもずば抜けて出来のいいクドカンドラマでした。低視聴率という悪評価をかばうような愛のあるコメントとともにギャラクシー賞を受賞したことも、『ごめんね青春!』がいかに不遇の名作であったかを物語っていると思いますよ私は(詳細はWikipedia様を参照のこと)。
クドカンさん、「おれの感覚がみんなからズレてるのか。おれがズレてるんだなと思うと、不安になっちゃって」なんて言わないでください。マスからずれててもいいから!だから面白いんだから!!