第35回『山田孝之の東京都北区赤羽』

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私、実は今東南アジアに住んでおりまして。もうすぐ3年になります。橋下も安倍も箱根も関係ない、気ままな外人生活です。ここは正月もクリスマスもずーっと夏、記憶の区切りがぼんやりしていて、おまけに馴染んだようでいても外人なんで所詮傍観者。まるで人生が年単位の夏休みに入っちゃったみたいなんです。そんな無責任極まりない夏休みを強引にとっちゃった売れっ子俳優がいて、それが山田孝之だっていうから驚愕っていうかもう驚愕につぐ驚愕でお茶の間をどよめかせたという『山田孝之の東京都北区赤羽』(2015年/全12回)を、夏休み組の同志としても首をかしげながらご紹介します!

 

変なの見ちゃった

廃人のくせにかっこよく海外なんかに住んでるんでね、日本のドラマ事情には実は疎いわけですが、私がこのドキュメンタリードラマ(と監督の山下敦弘氏は言っています)のことを知ったのは、「見るべきドラマ」に極めて鼻の利く友人が「こいつはすごい、おかしい」と騒いでいたからです。そりゃあ高画質でしっかり観たいなと思って、珍しく公式の動画配信を買って腰を据えて観賞したわけですが。初回冒頭から、モニターの向こうで何が起こっているのか、うまく飲み込めませんでした。

時代劇の撮影現場で、血まみれの浪人姿で自決しようとしてる山田孝之の絵から始まるんですがね。目がいっちゃってる。言ってることは白々しいんだけども、緊張感が半端ない。山田君のファンでそれなりに作品を観てきた私は、演技としては見たことのないレベルの生々しい表情に息が一瞬でつまりまして。怖かったー。なんせ血まみれだしね。そこから唐突に、猛々しい髭面になった山田くんが清野とおるの漫画『東京都北区赤羽』を持ってきて、赤羽に越すと。そこで自分探しをしたいと。その様子を撮ってくれと、自分が潰した映画の監督に頼むわけです。周りも大困惑のまま、鬼気迫る勢いで赤羽へ突進する山田君を、カメラがかろうじておっかけていくと、そんなオープニングでした。

またこの赤羽の描写が嘘くさくてね。独特の街として知られてますが、にしても「赤羽って変キャラ一杯でしょ?」という押し付けがましい態度で、こっちの気持ちも引きかかるのに、髭面の孝之が出てくると、その髭と、短パンの足の短さと、他人を拒絶するような、赤羽には媚びへつらうような、異様に切羽詰まった表情から目が離せなくなる。「自分探しって、30も越えて何いってんの君?」というリアクションをすっかり忘れてしまうぐらいの、そんな山田孝之のリアルなんですよ。これが演技だったら君、とんだ名優だぞ!と、もう気になって気になって仕方ない。で、やっと初回に対する感想が頭でまとまったと思ったら、出てきた言葉は「…なんか、変なの見ちゃった」の一言だけでした。前述の友人の「おかしい」も、「笑える」ではなくて「頭おかしい」とか、そういう意味だったんだろうと納得したのでした。

松下祥子@猫手舎
WEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスや広告にこまごまと参加。得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。