第33回『ザ・オフィス』

空飛ぶモンティ・パイソン VS サタデー・ナイト・ライブ

『ザ・オフィス』の本家版『ジ・オフィス』(本家とリメイクを区別するために、日本語タイトルでは「The」の読み方を変えたみたいです)はイギリスのドラマですが、ブリティッシュコメディーといえばモンティ・パイソンですね。徹底的にブラックで、『空飛ぶモンティ・パイソン』の記念すべき第1シーズン第1話がいきなりナチス絡みのコントだったり。ファンには大変有名な「殺人ジョーク」ってネタなんですが、読むだけで笑い死んでしまう殺人ジョークを対独兵器に仕立てるというネタで。ちょっと見てみましょうかね。

……高卒なせいかよく分かりませんでしたけど、日本だったらお笑い新番組の一発目に、慰安婦の銅像を立てまくる隣国の女性大統領が捏造記事を書いた新聞記者と不倫なんてコントを持ってきたとか、そのぐらいのインパクトなんでしょうか?面白いかどうかは関係なく即BHO行き、ネットで大炎上の末打ち切りでしょう。そこで伝説になっちゃうイギリスって、底知れぬ闇があるんですかねえ価値観的に…料理がイギリス人自身引くぐらいまずいとか、曇りと雨ばっかりとか、イギリスの方々ってよく見るとすごく暗いですね。パイソンズは他にも人種差別ネタとシモネタ(有名なSPAMメールの語源とか。動画コチラ)が大量にあって、2014年の復活ライブではカトリックと中国人が主な標的になったとか。どう反応していいか分かりません。

こういうシニカルで痛烈なイギリス風味をアメリカ流にアレンジしたのが『ザ・オフィス』第一回。本家第一回よりずっとずっアイタタな空気満載の上に、主人公の支社長マイケルが唐突にヒットラーのモノマネを始めたりと本家にはないシーンも。第二回は人種差別ネタ。舞台は「人種差別をなくそう」とマイケルが無理やり開催したセミナーにて。

マイケル「メキシカン以外の言い方はない?」
メキシコ系社員「…どういう意味ですか?」
マイケル「何ってこう、もっと蔑視してない感じの」
メキシコ系社員「…メキシカンはメキシカンですが」

手ブレカメラでドグマ95ばりの緊迫を写しだしているのですが、こういう過激さというのはアメリカ的というか、1975年から今まで続くアメリカンコント番組の王様「サタデー・ナイト・ライブ」(以下SNL)の伝統でもってパイソンズを打ち返したというか。SNLは人種差別というよりも、有名人や時事ネタを徹底的に茶化したり、様々なパロディーをやったり、有名人を引っ張ってきてシモネタをやらせたりと、底抜けに明るくてバカバカしい過激さがウリです。スーザン・サランドンを「お互いの母ちゃんをファックしあって、母ちゃんの欲求不満を解消するっての母の日プレゼントにしようぜ!」(こちら歌詞和訳)なんてミュージック・クリップに出した時には、固まりながらも爆笑を禁じえませんでした。

要は、これは英米お笑い対決なのだなと。私はそう理解しました。SNLといったら、ハリウッドで活躍するコメディー俳優の登竜門ですよ。あのトム・ハンクスだってSNL出身です。すごい番組なんです。陰気なイギリスとご陽気さんなアメリカがお互いの笑いの伝統を最高にカッコいい形で引き出してやろうじゃないかと、『The Office』はつまりそういう番組だと思います。なのでこのドラマについてこられた日本人は、相当肥えた目であると自慢していいと思いますよ!誰にも理解されない、一人相撲になるでしょうがね。

松下祥子@猫手舎
WEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスや広告にこまごまと参加。得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。