第3回 『野ブタ。をプロデュース』

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野ブタ。をプロデュース(2005年/全10話)

さて今週のドラマニアは、学園ドラマ『野ブタ。をプロデュース』(2005)をご紹介します。ジャニーズ帝国を敵に回す覚悟はないので、ファンの方は薄目程度でお読みください。

 

ズバリ!ジャニドラ最高傑作
実はNo.1を決められるほどジャニーズのドラマを観てないのですが、今ネットでざっとタイトルを調べた感触ではやはり『野ブタ。』を超えられるドラマはなさそうです。が、ネットにあまたあるジャニドラ傑作リストに『野ブタ。』が上がってきさえしない事態に愕然とするわけです。

全く視聴者はどこをみているんだと。観る人を最高にイラっとさせる山下智久の「だっちゃ」連発に、最高に挑戦的な亀梨和也の眉毛をも受け止める懐の深さ。ドラマファンにとってもジャニーズにとっても、『野ブタ。をプロデュース』以上のジャニドラは存在しませんよ!

 

奇跡の「賞味期限内」
まず理由のひとつめは「年齢」問題です。主役の修二(亀梨和也)と彰(山下智久)を演じた二人の実年齢は当時、亀梨が19歳、山下が20歳。ギリギリ10代の範疇です。これはジャニーズドラマにおいて特筆すべきことです。というのも、ジャニー喜多川さんのご趣味のせいで、ご存知のようにジャニーズタレントというのは低身長&童顔で占められております。そのせいで、20代も後半に差し掛かると役者として微妙になってくるのです。

嵐やSMAPもそうですが、実年齢通りの役を演じると何だか子供が大人のふりをしているように見え、かといって若者を演じてもうまくはまらない。彼らはいつだって「不気味な年齢不詳」です。金八第五シーズンの主役を演じた風間俊介など、ジャニーズ最高の演技力を誇ると言われながら童顔すぎる容姿が祟ってテレビじゃろくな役がつきません。

ジャニーズドラマというのは、役柄と出演者の年齢において常に何らかの無理があり、そこをファン心理に乗じて押し通すところがあります。しかし『野ブタ。』に関しては、亀梨と山下が高校生を演じても無理がない年齢であり、年齢相応の華奢な体格と低めの身長、中性的な顔立ちが物語と奇跡的なバランスを保ったのです。現在の二人は何の役をやっても無理のあるジャニーズ仕様に落ちてしまいましたが、『野ブタ。』は喜多川さんの性癖がドラマのニーズと合致する、稀に見る「賞味期限内」となりました。

 

堀北真希の描いた「現実感」
堀北真希演じる小谷信子の「現実感」もよかった。度を超えて暗い容姿の陰気ないじめられっ子というのはいかにも陳腐ですが、佇まいに異様なリアリティーがあるのです。美少女オーラが全くない。メガネをはずすと的なシーンにおいてすら光り輝かない。結局最後の最後までうすら暗い雰囲気を払拭しなかった堀北真希は、設定が陳腐でも存在を否定できない現実感があり、現実感の希薄なこのドラマの世界観のなかで唯一、非現実と現実をつないでいるのです。

堀北演じる小谷信子は、若干薄っぺらいジャニーズ二人のキャラ設定と対になって、物語に奇妙に落ち着いた「不安定感」を与えるのです。少年たちが、不安定な自我でかろうじて世界と繋がっていることが普遍であるのと同じように。

 

「嫌な思い出でもいいから、私を覚えていてほしい」
このドラマの脚本家である木皿泉についてですが、皆さんどのくらいご存知でしょうか? 夫婦二人によるユニット名なのですが、地上波連続ドラマの脚本は現在までで4本。寡作です。視聴率が良かったのは『野ブタ。』だけで、松山ケンイチや前田敦子を盛大に爆死させたこともあります。一方で一部に熱狂的ファンがおり、数字に反して作品の評価が非常に高い。たった4作のうちにテレビ界最高権威のギャラクシー賞2回に向田邦子賞まで受賞しております。ブレイク前の宮藤官九郎とちょっと似た立ち位置です。

彼らの世界観の特徴は、独特の非日常感、透明感とわずかな残酷さ。それでいて人生に前向きになれるような暖かさがあることです。

「嫌な思い出でもいいから、私を覚えていてほしい」というのは劇中で出てくる台詞ですが、人に嫌われるのが怖い、本当の自分が分からないと言って自分を持て余す少年たちは、他人を傷つけてでも居場所を作ろうと、必死で背伸びをして暗闇を進みます。「ガラスの十代」「硝子の少年」などやたら「少年=透明で脆い」をアピールするジャニーズの陳腐な世界とも重なりますが、木皿泉はそれを誠実に、丹念にドラマにしてみせたのです。ダークな原作小説を180度変えた世界で木皿泉が伝えようとしたのは、痛々しいほど愛おしい青春の姿でした。

「いろんな人と出会って、いつか二度と会えなくなる」
このドラマには、忌野清志郎と深浦加奈子の「転機」の作品という一面もあります。風変わりな古書店の店主を演じた清志郎は、この作品の翌年にガン闘病を発表し、2009年に他界しました。2008年にやはりガンでこの世を去った深浦加奈子は、この作品が放送された2005年、闘病しながらの女優活動でも事務所に迷惑をかけないために独立しました。つまり女優として死ぬ準備をした年なのです。

「いろんな人と出会って、いつか二度と会えなくなる」というドラマ終盤に出てくる台詞は、二人の俳優との別れを予見するようでもあり、成長を遂げた少年たちの別れが必然であること、青春はすぐに終わってしまうことを象徴しているようでもあります。

以上の理由で「野ブタ。をプロデュース」は、永遠に少年であることを強いられているジャニーズタレントを真の意味で光り輝かせる、最高の青春ジャニドラであることを私は断言いたします。「早く人間になりたい」とか「お嬢様の目は節穴でございますか?」とか「死神」とか「怪物」とか観てる暇があったら、青春アミーゴで例のやつらに追われとけって話です。まじで。

松下祥子(猫手舎)
WEB専業コピーライター兼ライター。幼少時からテレビを友達として育つ。韓国文化ファン歴は11年。得意分野はテレビ番組、旅行、映画、書評、宗教、オカルト、動物。