第15回『神のクイズ』

韓国ドラマ制作の壮絶な舞台裏

「1話完結の捜査もの」「主人公が同じままシリーズ化すること」の何がそんなにすごいのか?日本人からしたら当たり前すぎる流れですが、実は韓流ドラマの枠のなかでは最も実現しがたい形であるからです。

そもそも韓国の地上波ドラマは長い。基本は1話65分前後で週2回放送、話数は16話ぐらいが最短で、100話以上なんてものもザラにあります。そして65分放送の間にCMがひとつも入らない。見始めたらトイレに行く隙もないってことです。局によっては2話連続で放送しますから、ちょっとお腹でも怖そうもんなら即脱落。こんな調子で一週間毎日各局必ずドラマを放送するので、韓国の人は日本人からするとバカバカしいほどの努力をしてドラマを作ったり見たりしてるわけです。こんな状況下で視聴率40%超なんてドラマがいくつも出るわけですから、皆どんだけテレビ好きなんだよと。大人としてそれでいいの?バカになるよ?と廃人の私ですら心配になるぐらいです。

韓国ドラマが常に同じような話になってしまうのもここに原因があるのです。こんな過酷な環境で視聴率を取ってくるためには、極めて扇情的な吸引力を総動員しないといけない。その上で、少々見逃してもついてこられるように簡単な話にしないとダメ。1話完結謎解きものなんてタルいこと言ってられないんです。ストーリーも数字とネットの反応を見ながらどんどん変えていくので、脚本が上がるのも放送直前、撮影終了がドラマ放送数時間前なんてことが常識です。最終回にたどり着く頃には息も絶え絶えで、視聴者好みのお決まりの展開に流されてしまってます。その上ラストまでに端役以外のあらゆるキャラの現在過去未来の問題が丸出しになってしまうので、続編の作りようがないのです。死ねる人は皆死んでしまうし。それが韓国ドラマの現状なのです。

ところがCATVだと事情は大きく変わります。1話50分、1シリーズ10話なんて形態もあり、視聴率頼みから解放されたおかげでドラマ制作の環境がぐっと良くなっているようです。10話程度引っ張っていければいいのなら、1話完結で後半に向けて連続したテーマで盛り上がっていくという日本人には見慣れた形でも十分いけます。「謎解き」というテーマに絞ったなかで話を完了させられるので、ネタが続く限りシリーズとして続けられる。そういう土壌で出来上がった『神のクイズ』シリーズは、現在シーズン4まで来ましたが、物語が大きく破綻することなく「質の高い」状態で続いています。韓国の視聴者にもこういうドラマを待ち望んでいた層があったというのは、ドラマファンとして嬉しい限りです。

松下祥子@猫手舎
WEB専業コピーライター兼ライター。大手検索サイトでのWEBマガジン立ち上げを経て独立、ポータルサイトでのコミックレビューコンテンツをはじめ、WEBサービスや広告にこまごまと参加。得意分野は映画、ドラマ、本、旅行、オカルト、犬、昼寝などなど。