VOL.7 中国人が日本でのゴルフに求める意外な楽しみ

中国人は名門コースがお好き?
プレーできることがステータスに

さて、それでは、どのようなコースが中国人に人気があるのかを、知っている範囲で例示していきたいと思います。連載の初回でも触れましたが、中国は巨大な国土と人口を有する国ですから、日本人的な感覚でひとつの国に共通する国民性や傾向があると考えてしまうのは危険です。その前提で、筆者は上海というひとつのエリアに限っての感触でお話をしているということを改めて強調しておきたいと思います。北京や広州では、また違う傾向がある可能性は大いにあるということです。

まず、中国人富裕層が興味を持つコースとして、いちばんに挙げられるのは、通常ではビジターとしてプレーができない、あるいは相当ハードルが高いコースです。メンバーオンリーの敷居が高いコースでプレーができることは、彼らの面子(メンツ)を大いに刺激します。普通ならばなかなか入れてもらえないコースで自分がプレーできたということは、特別扱いされたという証。何より中国人の自尊心をくすぐります。

次のポイントとしては、歴史のあるコース。以前に当連載でもご紹介しましたが、中国ゴルフの歴史はせいぜい30年程度。つまり、ゴルフ場自体がまだまだ若く、成熟からはほど遠いところにあります。絢爛豪華なクラブハウスや豪華な別荘が付帯する派手さはあっても、そこに時を経た場所ならではの重みがそこにはありません。また、コースの植樹も成長過程なため、完成形からはほど遠いコースばかりというのが実状です。

歴史やその背景に潜むストーリーは、中国人が非常に好むもの。ゴルフも例外なく、歴史あるコースでプレーしてみたいと望む中国人富裕層は多いようです。もっとも、先ほど述べた敷居の高いコースと歴史の古いコースというのは、だいたい被ってきますから、この2つのポイントは同一の嗜好によるものとも言えるでしょう。

実は人気がない?ツアー開催コース
中国人にどう売り込むべきか?

となると、中国人富裕層に人気のコースは、日本ではなかなかプレーができない場所が多いということです。実際、固有名は控えますが老舗の有名コースでプレーしてみたいがなんとかならないのか? という相談を受けることは珍しくありません。大抵は、日本の歴史のあるコースが維持しているメンバーシップというものへの理解が浅いことからくるのではありますが、貸切できる料金を支払えば問題ないではないか? というようなことを言われたこともあります(丁重にお断りしましたが)。

中国人富裕層が興味を持つコースほど、プレーに対する敷居が高い。仕方がないこととはいえ、もう少し環境を整えられないものか、というのは送り出したいこちら側からの率直な感想です。ゴルフツーリズムという世界的な潮流にうまく乗るためには、その部分の観点はひとつポイントになってくるとは思うからです。

一方で、日本側からアプローチをかけやすいのは、トーナメント開催コースなど、知名度と実績を備えながらも条件に応じてはビジターにも開放されているコースでしょう。では、それらに中国人富裕層たちは興味を持ってくれるのでしょうか?

日本人の間では、ツアー開催実績のあるコースというのは人気でしょうが、中国人にはほぼ通用しないと思っていいでしょう。なぜなら日本のツアー自体が中国ではほぼ認知されていないからです。石川遼や松山英樹の名も、それほど浸透しているわけではありません。中国人ゴルファーが日ごろウォッチしているのは、アメリカやヨーロッパのツアーです。当然、世界のトッププロは同じように中国で有名であり、中でもダントツの知名度を誇るのはやはりタイガー・ウッズです。日本でタイガーがラウンドしたことがある宮崎のフェニックスカントリーや太平洋御殿場などの名前が、中国人ゴルファーからときどき上がってくることがあるのも、タイガー人気を鑑みれば合点がいきます。

コースとしての格、歴史、そしてタイガー・ウッズ関連。現時点で、中国人富裕層たちが認識している日本のゴルフといえば、せいぜいこの程度なのかもしれません。しかし、日本のゴルフには、旅の要素を絡めればもっとうまく売り出せるものがあるはずです。ゴルフと旅を絡め、複合的な商品にして中国人に紹介する。いま筆者が取り組んでいるのは、そういった働きかけです。

たとえば上海の場合、市内中心部から1時間程度でアクセスできてしまうコースがたくさんありますが、近さ故に自然の美しさを感じられるような場所ではありません。一方で日本ならば、少し足を伸ばせば大自然を堪能しながらのゴルフが楽しめる。そしてそういったエリアには、温泉やゴルフ以外のアクティビティも豊富です。次回、具体的に掘り下げていきましょう。

クラブユーフォ!管理人・野田道貴
一季出版: 『月刊ゴルフマネジメント』(毎月15日発売)ほか、ゴルフ業界誌や専門書を出版。 http://www.ikki-web.com ※当連載は、一季出版が発行するゴルフ業界誌『月刊ゴルフマネジメント』への寄稿を転載したものです