VOL.5 高価な訪日お花見ツアーから、中国人の海外旅行志向の変化を考える

2013年の訪日中国人は130万人
今年は過去最高になる勢い

中国人の訪日観光に必須であるビザは、しかしながら誰でも取得できる、というものではありません。団体ビザと個人ビザでは要件が異なりますが、いずれにせよ「ある一定額の収入」があることが求められます。在職証明や預金残高、保持しているクレジットカードなどを確認されるほか、膨大な事務手続きが必要です。

そんな困難を乗り越えてなお、中国人の訪日旅行者が増えている、という事象をどう捉えるか。2013年は130万人強の中国人が訪日旅行を果たしました。今年に入っても、中国の正月休みにあたる1月末からの春節休暇の期間中に、日本政府は中国大陸からの団体ツアー客に対しては7万9,000人、個人旅行客に対しては3万人へ訪日観光ビザを発給しています。これは過去最高の数字であり、尖閣問題等によって日中関係が冷え込んだ前年比同時期の約10倍にあたります。

いまの円安基調が続けば、今年の来訪者数は昨年を大幅に上回るはずです。旅行者が増えるほど、ニーズは細分化されていきます。やがて一般的な観光旅行では飽き足らず、テーマ性のある旅へと展開していくでしょう。その流れのひとつが「ゴルフツーリズム」であり、日本のゴルフ環境を売り込むチャンスであると筆者は捉えています。

では具体的に、どのような商品が売れるのか。対中国人向けの訪日ゴルフ旅行について掘り下げて行く前に、実際に中国人が日本でどのような旅をしているのかを検討してみることにしましょう。

じっくりテーマを掘り下げる
高価格、高付加価値の訪日旅行

ここでひとつ紹介したいものがあります。中国で発売されている人気旅行雑誌『旅游情報』の中で紹介されている、今年の春の訪日お花見ツアーの行程です。
————————————————————
桜祭り京都5日間
〜哲学の道、幻の夜桜、嵐山トロッコ、琵琶湖温泉リゾート〜

————————————————————
〈1日目/上海〜大阪〜京都〉
上海→関空
京都/哲学の道→平安神宮→大阪
宿泊:ホテルニューオータニ大阪(または同クラスホテル)

〈2日目〉
嵐山にてトロッコ乗車体験&保津川下り→嵐山観光→高台寺夜桜ライトアップ観賞
宿泊:ウェスティン都ホテル京都(または同クラスホテル)

〈3日目〉
金閣寺→北野天満宮→比叡山・延暦寺
宿泊:延暦寺会館

〈4日目〉
琵琶湖周遊→ミホミュージアム
宿泊:記載なし(滋賀県)

〈5日目/大阪〜上海〉
大阪市内観光・ショッピング
関空→上海
————————————————————
4泊5日/15,080元〜

特筆すべきポイントをいくつか記します。

まずは行程。かつての中国人訪日ツアーといえば、関空IN、成田OUTといういわゆる「ゴールデンルート」をめぐるものが主流でした。限られた時間でできるだけ多くの場所を回ろうということで、一箇所の滞在時間はほんのわずか、駆け足で移動しながらとにかく名所の数をこなす、というものが一般的でしたが、この商品は対極的です。2日目の日中は嵐山をじっくりと。3日目も4日目も、なんともゆとりのあるスケジュールのようです。

つぎに、旅にテーマ性があること。「桜」を主体にして、じっくりと日本文化を楽しもうという趣向であることがわかります。比叡山での宿泊や、ミホミュージアム訪問が組み込まれているなど、なかなか味のある設定になっています。

そして価格。15,080元というのは、この原稿を書いている2014年3月下旬の為替換算で、約25万円になります。確かに、桜の季節にハイクラスのホテルに泊まるとはいえ、結構な値段ではないでしょうか?

面倒なビザを取得できる資格のある人たちは、すなわち中国社会での「富裕層」だと言っていいでしょう。わざわざ大変な思いをして出かけてくる日本で、せっかくならば中国ではできない体験をしたい。そこにかかる費用については、それだけの価値があるならば惜しみなく払う、というスタンスの人が主流です。

今後、ビザの発行が緩和、あるいは免除され、より門戸が広がればバックパッカーのような旅行者も増えるでしょうが、現時点では違います。ビザに経済的ハードルが設けられている以上、それをクリアできる人たちは高級志向であることは確かです。これは、訪日ゴルフ旅行を仕掛けるにあたり、大きなヒントとすべきだと思います。次回、さらに考察を深めていきます。

クラブユーフォ!管理人・野田道貴
一季出版: 『月刊ゴルフマネジメント』(毎月15日発売)ほか、ゴルフ業界誌や専門書を出版。 http://www.ikki-web.com ※当連載は、一季出版が発行するゴルフ業界誌『月刊ゴルフマネジメント』への寄稿を転載したものです