数年に一度の集大成
上海には、日本人同士のサークルや集まりが無数にあります。
上海に来てまだ日が浅かったころは、いくつかのサークルに首を突っ込んでみたものですが、人の入れ替わりの激しい街なので親しくしている人がいなくなったらそのまま自分も足が向かなくなったりなどで、いまでは大学と高校のOB会に時々顔を出す程度にとどまっています。
なので、振り返ってみるとなにひとつ継続して打ち込んできたものはありません。こんなに長くこの街にいることになるんだったら、何かやっておくんだったなと今さらながら思わないでもないのですが。
そんな中でひとつだけ、わりと深く関わってきたものに「上海アパッシュ」という劇団があります。
関わってきたといっても、劇団員としてステージに立つということではなく、いくつかの公演で裏方のお手伝いをさせていただいた程度の関わりです。「キャストがひとり足りないんだけどなー」などと座長から思わせぶりに言われても演者になるのはかたくなに断り続け、その代わり照明や音響を手伝わせていただいたり。最近では忙しさにかまけてヘルプ要請があっても応えることができず、なにもできていないのですが、今日は久しぶりに彼らの公演を観てきました。
演目は、井上ひさし作「シャンハイムーン」。
1930年代の上海を舞台にした、魯迅と彼を取り囲む日本人たちの物語です。蒋介石率いる国民党の弾圧から逃れ、地下潜伏を余儀なくされる文筆家・魯迅。上海で書店を経営する内山完造は、魯迅を手厚く保護しながら彼が抱える幾多の病を克服させようと、日本人医師の須藤と歯科医の奥田を密かに呼び寄せるのですが、大の医者嫌いである魯迅は、すべての治療をかたくなに拒み続けます。どうにも困り果てた内山たちは、とある策略をめぐらし魯迅に麻酔をかけて治療を試みるものの、それをきっかけに魯迅は精神に変調をきたしてしまう。やがて彼が抱える罪の意識の数々が明らかになっていき、、、
というストーリーは、必ずしも史実に即したものではありませんが、文学者としての魯迅の苦悩を掘り下げ、そこに日本人とのあたたかい交流を重ね合わせることで「人間・魯迅」が浮き彫りにされます。中国と日本が戦争へと突き進んでいく逼迫した時代背景にありながら、国家や政治を越えて深くつながる中国人と日本人の物語。あくまでエンターテイメントの演劇ですが、いまのような時代にあってはどうしたっていろいろと考えざるを得なくなるものです。
「シャンハイムーン」は、劇団アパッシュがその都度メンバーを替えながらも定期的に取り組んでいる、彼らにとって特別な演目です。なんせ2時間を越える物語、アマチュアの劇団としては稽古の時間も限られる中、覚悟を決めて取りかからないことにはちょっと手に負えない大作なので、どうしたって何年に一度しかできないのです。
前回の「シャンハイムーン」は2008年の3月なので、実に5年ぶりの再演。その5年前の公演では、音響スタッフとして参加させていただいたのでした。スタッフとはいっても、事前の稽古にはたいして顔を出せなかったので、ほぼ本番一発勝負のような形、たいした貢献はできていません。それでも、この演目にかかる負担の大きさはわかっているだけに、彼らが久しぶりに再演すると聞いてはやっぱり観ておかないわけにはいきません。今回は何一つ手伝いすらできず、ただの一観客としての観劇でしたが、そして前回とは大幅に脚本も代わり、まったく違う演出がされていましたが、やっぱり上海に住む日本人としては、特別な物語であることに変わりはなく観ておいて損はないとおもいます。
明日(3日)も、昼夜2回(13:30〜/19:00〜)の公演があります。当日売りもまだ残っているそうなので、上海で興味のある方はぜひどうぞ。
劇団上海アパッシュ第15回公演
「シャンハイムーン」
作:井上ひさし
演出:ひきたごう
出演:信田素秋/紗紗/弥山凌/近藤美幸/越智美由希/ひきたごう
会場:「可」当代芸術中心1階ホール
凱旋路613号B座1楼
地鉄3・4号線「延安西路」駅徒歩4分
問合せ:136-0167-0943