物足りなさの正体

ゴルフとクルマの密接な関係

中国では絶対に運転なんてしたくない。ずっとそう思っていました。

こんなに交通マナーの悪い国でクルマの運転をするなんて、ちょっと勘弁だよなあと。おそらく、中国に住むたいていの日本人は、同じように思っているはずです。でも最近、どうにもクルマがほしくてたまりません。

仕事柄、ゴルフ場へ出かけることが多くなってくると、現実的な移動手段としてクルマがあると便利だなあと考えるようになりました。週末のラウンドのときは、社用車を使える方に便乗させていただくことが多いのでゴルフ場への移動の足に困ることはほとんどないのですが、平日に仕事の用事でコースへ、となると、うちみたいな零細企業にはもちろん社用車なんて存在するわけがなく、途端に移動手段に困ってしまいます。

その都度ハイヤーサービスを使うことになるのですが、これがどうにももったいない。いや、たとえ毎週運転手付きのクルマを手配したところで、自分でクルマを持つコストに比べればはるかに安いのだから、もったいないかどうかは重要な問題ではない。そればかりか、行き帰りに居眠りだってできるし酒を飲んだって怒られない。仕事だろうがラウンドだろうが、酔っ払って寝ながら移動できるなんて日本で考えたら夢のような話なのかもしれない。こんなに楽なことはないはずなのに、それでもやっぱり自分で自由にできるクルマを持ちたいという欲求にはどうにも抗えないのです。

クルマに乗りはじめたのは学生のころですが、その後働くようになって月に数日しか使わなくなっても、クルマを手放すことはありませんでした。

二十代の中ごろ、経済的な事情その他諸々でいったん都心から離れることになったときも、どこまで離れたらクルマが維持できるかを考えて引っ越しをしたものです。クルマさえ手放せば駐車場代と維持費から解放されて都心近くに住めただろうものを、それよりも予算内で家賃と駐車場代をまかなえるエリアで家を探したものでした。

都心から離れ、確かに通勤は大変になりましたが、ゴルフをはじめたのもこの時代。週末にもてあました時間は、当時の自宅からクルマで20分ほどの場所にあったゴルフ練習場通いに費やされました。いま思えば、あの引っ越しでクルマを手放していたら、あんなに気軽に練習場通いができなかったし、きっとゴルフをはじめることはなかったはずで、日本ではゴルフとクルマというものは大変密接な関係にあるわけです。

上海に来て、確かにゴルフそのものはぐっと身近なものになりました。毎週のように誰かに誘われるし、いろいろなコンペもある。日本にいたころのように、何ヶ月も先の予定をやりくりして休みを調整しラウンドの計画を立てたりする必要はなくなり、ひょいと思い立ったときにゴルフができるようになった。

ゴルファーとして機会が増えることはいいことだけれど、それでも、1回1回の楽しみが薄くなったような気がするのはないものねだりでしょうか。何か足りない感じがする、それは、クルマがないせいなのかなと最近思うのです。

東京に住んでゴルフに行くということは、それもまだ20代でたいしたお金もなく(いや、これはいまでもないな)、週末に安くラウンドができるコースを探すとなると、必然的に片道2時間かけて埼玉の奥のほうや群馬あたりまで出かけていかなければ予算的に納まるコースにたどり着かなかったわけです。

つまり、ゴルフ=ちょっとした遠出ということになっていて、それは片道2時間のドライブが必ずセットでついてきていた。せっかくの休みにわざわざ4時に起きて自分で運転までしなきゃいけないことがどれだけ面倒かという話なのだけれど、一方でそのドライブのおかげで非日常のお出かけ感を盛り上げていたわけで、思えばそれが楽しかったのだと。

それが今では自宅までお迎えに来てもらって社用車にタダ乗りさせてもらった挙げ句、ゴルフして酒飲んで酔っ払って居眠りしながら帰って来られる。こんな恵まれた環境はあり得ないことを重々承知のうえで、やっぱり面白みに欠けるのは、楽にゴルフができちゃうからなのかなあと。

日本にいたころは、2ヶ月、いや、3ヶ月に1ぺんほどしかラウンドなんてできなかった。毎週ゴルフができるような生活がいつかしてみたいとずっと思っていたにもかかわらず、いまこうして上海にいて、年間30ラウンドくらいはコンスタントにしているはずだし、まわりには50ラウンド、100ラウンドと回数を重ねる人たちがたくさんいる。

それが楽しいか? といえば、やっぱり何かが欠けている気がしてしまう。ちょっと辛いときもあるけれど、早起きして自分の運転でコースへ行く。その過程がゴルフをするという気分を高揚させるのであって、楽に移動ができてしまうことによって「ゴルフ場にでかける」といういちばんの楽しみを奪われてしまっている気がするのです。

交通事情は最悪だし、クルマそのものの値段だって日本に比べれば割高になる。そのうえ、ナンバープレート1枚取るのに100万円近くしてしまうこの上海で自分のクルマを持つことは少しも現実的ではないけれど、自分の運転でゴルフ場に行く楽しみって、何物にも代えがたいものだったのかもしれないなあと。

もし自分で運転するのだったら、いまみたいにラウンドの前日に深酒することもないだろうし、睡眠にだってもっと気を使う。そうするとスコアにだって影響するはずで、いま伸び悩んでるのはひょっとするとクルマがないせいなんじゃないかという結論にたどり着き。

ああ、結局スコアアップのためにもクルマを買うしかないんじゃないかとちょっと歪んだ妄想が続く最近です。