再発見、再点検、再選択

アマチュアの世界では敵なし、正確なショットで名手と言われた中部ですら、時として調子を崩すことがあった。

自身の中で決めているチェックポイントをいくら確認してみても、悪いところはないのにどうしてもうまくいかない。45年ゴルフをやっていて、自分の意識の中で確認事項は頭に完全に入っている。それなのに、見落としていることがあることにあるとき気がつき、そこを点検してようやく不具合を発見した——。

よく「開眼した」というけれど、ゴルフは「開眼」と「閉眼」の繰り返し。何年やっても「気づき/発見/開眼」があるが、裏を返せば見落としていたことがあるということ。大切なのは、自分の「点検材料」を正しく定め、常にそれを確認することを怠らないことだと中部はいう。それがあって初めて、新たな「気づき」があるのであり、だからこそゴルフは何年やっても面白いのだ。

道を見失った時の処方箋

たくさんの駐在員の方と接するなかで出てくる決まった悩みは、中国特有の人間関係やビジネス環境の壁を打ち破れないということです。

私はそこで必ず同じ質問をします。「中国で何をしたかったのですか?」と。すると大抵は赴任当初の意気込みからは程遠い、消極的な答えしか返ってきません。「今それを改めて考えなおしているところ」と答える人すらいます。自分が何をすべきか迷い、当初の目的を見失っているのです。

私はそこでもやはり同じことをいいます。迷った時に立ち返る場所はいつも、「駐在員の本分とは?」という問いの中にあり、その答えはいつも「現地社員とともに汗を流し、考え、中国における事業戦略を達成する」ことであるはずです。誰しも赴任当初は必ずこの気持ちを持っていたはずなのです。

でも、駐在員の方は得てしてこの本分を見失う。その気持ちはよく分かります。瑣末なことから大きなことまで、中国人との間の軋轢を日常的に体験して、すっかり疲弊してしまった人も少なくないと思います。

しかし、この事態にはシンプルな処方箋があります。迷えば元に戻ればいいのです。そのために「中国に何をしに来たのか?」という初心をチェックし直すことが重要です。

「知っていること」から再点検する

チェックするのは、中国に来る前から覚悟していたはずのこと。それはあなたが今超えられずにいる壁そのもの、つまり「文化や価値観、商習慣が全く違う」ということなのです。同じなのは肌の色くらいなもの。ひとつひとつ、何が違うかを羅列してみるのもいいでしょう。こうした点検によって、あなたは「違いを再発見」するのです。根本的なことを改めて発見することには大きな意義があります。心の中にある暗い澱のようなものを、「偏見」ではなく「認識」に変えて、受け入れることができるからです。

違いを受け入れる一方で、「考え方や価値観は違えど、同じ人間」という普遍的な事実にも気づくはずです。リーダーシップには国境も人種の壁もありません。あるとすれば、生まれ育った環境の違いや経験値、ナレッジの共有の差が少しばかりあるだけ。真剣に仕事に取り組み共に汗を流そうという姿勢に国は関係ありません。この当たり前すぎる事実を吟味すること、迷ったら何度でもこのチェックを繰り返すこと。こうして目標達成のために新たに「開眼」するのです。

「閉眼」と「開眼」の繰り返し

中国人の部下たちを色眼鏡で見てないか? 自分の言い方に問題はなかったか?伝えているつもりが伝わってなかったのでは? と考えるのは容易ではありません。それほどに今ぶつかっている壁は厚く、駐在員の方の心は凝り固まっているでしょう。

しかし壁を乗り越えるための横道はありません。違いを受け入れることによって初めて同じ目線に立てる。そこから全てが始まるのです。これは何も中国に限ったことではないでしょう。どの国に行ってもどの国で仕事をしても、日本とは違う。この事実に開眼すれば、新たに道が開けてきます。
しかし開眼しても、簡単に閉眼してしまう。迷い、本分を見失う。人生もゴルフも開眼と閉眼の繰り返しです。駐在員としての仕事も同じ。閉眼したら開眼する。この繰り返しが、必ずや目標達成の基盤を強くするはずです。

目の前にあるのは壁であり、障害ではありません。ピンチをチャンスに変えるために、基本を再点検し「開眼」を目指してください。

参考文献:中部銀次郎 ゴルフの心(杉山通敬著・日経ビジネス人文庫)

中部銀次郎とは:前人未踏・日本アマ6回優勝という金字塔を打ち立て「プロより強い」と評されながらも生涯アマチュアを貫き通した伝説のゴルファー。その徹底したアマチュアイズムとストイックな姿勢には、多くの教訓が今も残る。2001年没。

金鋭(きん・えい)/英創アンカーコンサルティン グ総経理